■ある約200床の病院で、退職が続き、

欠員補充のための募集をかけたところ、

幸い応募者が現れ、

事務長は、面談に追われていました。

 

先日、その事務長に、

「このところ、退職が続き、大変でしたね」

と話しかけた時、

「いやぁー、参りました。

この3ヶ月で、12人です。

いま採用面談が入っていて、へとへとです」

 

「退職者の面談はされたのですか?」

と聞くと、

「その退職面談が大変でした」

というので、

「どんな理由が多かったですか?」

 

すると、

「結婚することになったので、というのが何人か…」

「家族の都合などですね」

「半分くらいは、そんな理由でした。仕方ないですね」

 

ここまで聞いて、

気の毒ですが、

「この事務長は、

へとへとだと泣き言を言うほど大変な思いをしている退職面談と採用面談から、

当分、抜け出すことはできないだろうなぁ」

と感じました。

 

日頃、この記事をご覧くださっているみなさんも、

同じように感じられたことと思います。

 

■組織は、人です。

 

その職員が、なぜ辞めたのか?

 

人間関係で辞めたのか?

 

家庭の事情でやむなく辞めたのか?

 

それを見極めるのが管理職の仕事であるはずです。

 

ところが、面談の言葉通りに

「家庭の事情」

と受け止めてしまい、

本当の退職理由を見極められていなければ、

事務長としては失格です。

 

なぜ、

家庭の事情と受け止めてはいけないのでしょうか?

 

まず、

医療従事者の退職理由のトップは永年、

「人間関係に悩んで」

であることは周知の事実です。

 

待遇に不満を感じて退職することは、

多くありません。

 

入職時から判っていることだからです。

 

業務内容が他の病院と大きく異なる、ということも

資格職である以上、少ないでしょう。

 

とすれば、

人間関係以上の退職理由はありません。

 

しかし、

人間関係が理由で退職するとは言いにくいものです。

 

人間関係が理由と言ってしまうと、

引き止められたり、

話を聞くからと引き延ばされたりすることもあれば、

その理由が職場に伝わり、

退職日までいじめられるということもあります。

 

そのように想像すると、

うかつに人間関係だとは言えません。

 

そこで、

「わたしも残念ですが、家族の都合で」

といった、

引き止められにくい理由を挙げてくるというわけです。

 

現場の人間関係が嫌で、早く抜け出したいという職員は、

半月でさえ、延長したくありませんから、

なおさら、

譲れない理由を挙げてくることになるのは当然です。

 

したがって、

「退職者のほとんどは、本当の理由を言わない」

と考えるのが妥当ででしょう。

 

また、そもそも、

「退職者の半分もの人が、

家庭の事情で辞めるはずがない」

という前提で面談をするべきでしょう。

 

さらに、そもそも、

「結婚することになったのでという理由で

辞める人が、いまどき、いるはずがない」

と考えるべきでしょう。

 

いまの時代は、

結婚しても働き続け、

妊娠しても出産しても

産休・育休をとってでも勤め続けたいと考える人が

増えてきています。

 

産休・育休をしっかりとってから、

復職する気もなく、

最後に有給休暇をしっかり消化してから辞める、という

(法的には間違っていないけれど)

後ろ足で砂をかけて去ってゆくケースすらもあります。

 

このように考えてみれば、

退職者の言葉通りに受け止めているようでは、

本当の現場の問題点がいつまでも見えず、

事務長職はつとまらないことがお判りでしょう。

 

■では、

「職員が、

本当にやむを得ない事情のために名残りを惜しみながら辞めるのか?

この職場が嫌いで辞めるのか?」

は、どこでわかるでしょうか?

 

もし、環境に恵まれていて、

辞めたくない職員は、

「いま事情を抱えているものの、

どうしたらここでの仕事と両立して続けられるか?」

と、

「辞める」

という結論を出す前に、

相談を持ちかけてくるはずです。

 

環境に恵まれているので、

そのような相談もできるというわけです。

 

一方、職場が嫌いで辞める職員は、

相談できる環境にないから辞めるわけですから、

誰にも相談せず、

「辞める」

と結論が出てから申し出てきます。

 

たとえどんなに口では

「残念です、本当は続けたかったのですが」

と言っても、

本音ではないと思った方が良いでしょう。

 

恵まれた環境に感謝していれば、

一方的な結論を主張することには抵抗があるものです。

 

■また、面談の際に、

上司が何も言わなくても、

「できれば、事情が好転した時には戻ってきたいです」

と本人の口から出てくれば、

それは、

やむを得ない事情のために名残りを惜しみながら辞める職員なのだと考えられます。

 

一方、

人間関係に悩んで辞める人は、

「戻ってきたい」

とは、口が裂けて血が出ても自分からは絶対言いません。

 

たま〜に、

「戻ってきたいです」

と口から血を流しながら言ってくれる人もいますが、

「無理して心にもないことを

棒読みで言わなくていいですよ」

と言ってあげなければなりません。

 

■また、

辞める理由の内訳割合から、

現場に人間関係の問題があるのかどうか、

推定することができるでしょう。

 

一般的な退職率を示している場合には、

その70〜80%は人間関係であるはず、と考えた方が、

自然ではないでしょうか。

 

世間一般と同じくらいの退職率なのに、

「自分の病院だけは、

人間関係ではなくやむを得ない事情での退職が多い」

と考えることは無理があるからです。

 

退職率が低い場合には、

人間関係に起因する無駄な退職を防止することに成功しており、

やむを得ない事情での退職だけが残っている

と、推定できるでしょう。

 

■いまどきは、

「婚約」

「結婚」

では、辞めない時代です。

 

「専業主婦になります」

「家庭に入ります」

が、死語になりつつあるという人もいます。

 

■では、どうすれば面談時に、

事務長職や部長職にある人が、職員本人から、

「本当は人間関係で辞めるんです」

と聞き出すことができるでしょうか?

 

それは、職員から

「もし私が本音を打ち明けても、

この人は、私を守ってくれる」

と信頼されることに他なりません。

 

誰しも、

信頼できない人には、本音を打ち明けることはありません。

 

では、次に、どうすれば、職員から、

「この人は、私を守ってくれる」

と信頼してもらえるでしょうか?

 

それは、退職の話に至るまでの日常において、

「この人は、これまでも、日頃から自分を守ってくれた」

と職員から感じてもらえる存在に、

自分がなるより他ありません。

 

それまでの日常において信頼されていなかったのに、

退職面談の時に、

とってつけたように信頼してくれることはあり得ないからです。

 

では、どうすれば、

「この人は、これまでも、日頃から自分を守ってくれた」

と職員から感じてもらえる存在になれるでしょうか?

 

それは、改めていうまでもなく、

「現実に、日頃から職員を大切にし、味方になり、守り続けること」

以外にはありません。

 

■「現実に、日頃から職員を大切にし、味方になり、守り続けること」

とは、どういうことでしょうか?

 

日頃から、

現場に足を運び、

現場の声を聞き、

時には現場のことを一緒にやり、

現場を理解し応援することでしょう。

 

自分がやりもしないことを、心から

「ありがとう、感謝しているよ」

と言えば、

職員は、感謝してくれているとは感じず、

「私たちの苦労を分かったつもりになるな」

と、かえって不満を(時には怒りを、場合によっては殺意さえも!)抱かせるだけなのですから。

 

そして、今日の結論ですが……、

 

日頃から、

現場に足を運び、

現場の声を聞き、

時には現場のことを一緒にやり、

現場を理解し応援し、

 

「この人は、いつも日頃から自分を守ってくれる」

と感じられる存在になっていれば、

 

そもそも、

「職員が人間関係で辞めることもない」

すなわち、

「嘘で固めた退職理由を申し出てくることもない」

ということです。

 

■つまり、

現場への関心が薄く、

退職理由を言葉通りに受け止める傍観者的な役員のもとでは、

当然ながら、

職員がそんな恵まれない職場環境に不満を感じて、

いつまでも、どんどん辞めてゆくということです。

 

退職と採用の繰り返しから抜け出すことをせず、

事務長職・部長職が、

疲弊してゆく様子を時々見かけますが、

それはまさに、

穴の開いたバケツに水を溜めようとするようなものです。

 

人材マネジメントとは、

退職面談と採用面談をしたり、

人材紹介会社と連絡を取ることではありません。

 

「どうすれば、この悪循環から抜け出せるのか?」

真剣に悩んでいる人は、考えてください。

 

これから、何をすれば良いのか?

 

それは、上述した通りです。