「1 on 1ミーティング」の限界

「1 on 1ミーティング」の限界

■企業であれ、病院であれ、

我が国の組織は、人材育成・組織開発において、

アメリカなどで流行った新しい手法に

すぐに飛びつき、

「さまざまな手法を導入するものの、

結局、形骸化する」

ということを、

幾度となく繰り返してきました。

  • コア・コンピタンス
  • OODA
  • クレド
  • Good & New
  • 360度評価
  • フィッシュ哲学
  • サンキュー・カード
……などなど、挙げればきりがありません。
 
しかし、
定着したものは稀で、
たとえ定着しても
「形骸化している」
という声が多いのが実情です。
 
この記事をご覧くださっているみなさんなら、
「なにか、本質的なことが見落とされているからだ」
と、お気づきでしょう。
 
■最近、流行っているのは、
(もしかしたら、みなさんも
試しに導入されているかもしれませんが)
1 on 1 ミーティングでしょう。
 
これも、
アメリカのシリコンバレーで始まり、
「ヤフーやグーグルといった躍進する大企業が実施している」
という触れ込みを聞いて、
矢も盾もたまらず導入した、という
日本企業が多いようです。
 
しかし、
「上司と部下が1対1で面談をする」
といったことは、
古くから行なわれてきたことで、
取り立てて新しいことではありません。
 
上司が気になった部下に
「ちょっといいか?」
と声をかけて、
いろいろ話を聞いてやる、といったことは、
部下を持つ上司なら
誰でも普通にやっていたはずです。
 
また、部下の方も、上司に
「たまには一杯連れていってくださいよ!」
とわがままを言って、
居酒屋で愚痴を聞いてもらった、
ということが珍しくありませんでした。
 
それがいまは、
部下は上司に接触したがらない傾向があります。
 
上司も気を使ってか、
部下へのアプローチをためらいがちです。
 
たしかに、
昨今の社会人は、コミュニケーション下手なので、
そんな面談を自然にできない人も多いのかもしれませんが。
 
■1 on 1 ミーティングは、
部下が自分の意思で、上司に依頼して、
ミーティングの機会を設けてもらうのが原則です。
 
ということは、もともと、
「飲みに連れて言ってくださいよ〜」
と、上司に持ちかけるタイプの部下は、
1 on 1 ミーティングという名前になっても、ならなくても、
遠慮なく申し出るでしょうから、
心配ありません。
 
一方、もともと、
「飲みに連れて言ってくださいよ〜」
と、上司に持ちかけなかった部下が、
1 on 1 ミーティングという名前がついたからと言って、
「課長、お願いします」
と申し出るはずがありません。
 
そして、そもそも、
一番問題なのは、
1 on 1 ミーティングという名前であれ、
面談という名前であれ、
上司に積極的に接触したがらない部下の方なのです。
 
そして何よりも、医療現場では、
「そんな時間がない」
というのが、最大の問題です。
 
働き方改革の影響で、
研修の時間すらとれないのが現実です。
 
まして、
「ちょっと聞いて欲しいんです」
といった対話のために時間を取るなど、
とても無理、と誰もが感じていることでしょう。
 
上司も部下も、
そんなことに時間を割くことについて、
お互いに、また、他のスタッフに対して、
罪悪感を抱きかねないのが、
こんにちの医療現場の実態でしょう。
 
なので、医療現場には、
1 on 1 ミーティングは、
そもそも馴染みにくいかも知れません。
 
とは言うものの、
「では、どうやってコミュニケーションを図るのか?」
という課題は無くなりません。
 
上司は部下とコミュニケーションを取りたいが、
部下は、それほど上司とコミュニケーションをとりたがらない。
 
では、どうするか?
 
■つまり、
本質的な問題は、
1 on 1 ミーティングという名前にするかどうかではなく、
「みずから面談を申し出ない部下とのコミュニケーションを
どうするか?」
の方なのです。
 
そして、みずから申し出ない職員に対しては、

「1 on 1 ミーティングは部下から申し出るもの」

などと言って、本人の意思を尊重していては、

永遠にコミュニケーションができないということです。

 

さりとて、

上司が強制的に部下の時間を奪うというのも、

良い関係を築くこと人はつながらないので、

やめたほうが良いでしょう。

 

せっかく声をかけたのに、

気が進まない部下から、

「なんですか?」

「いいたいことはありません」

「いまじゃなきゃいけないですか?」

「なぜ私だけなんですか?」

と、冷たい反応を示された経験がある方もいるのではないでしょうか?

 

部下というものは、

上司がコミュニケーションを取ろうとすれば、

「忙しいのにこっちの気持ちも考えてくれない」

と不満を言うものですが、

 

かと言って上司が部下に遠慮して、

コミュニケーションを取らなければ

「関心を持ってくれなかった」

と拗ねる、

……といったわがままなものです。

 

なので、

なんらかの形でコミュニケーションを設ける必要があります。

 

しかし、得てして

「コミュニケーションを取りたいのは上司の方だけ」

です。

 

そのため、

1 on 1 ミーティングなる手法を導入しても、

「1 on 1 ミーティングをお願いします」

と部下が申し出なければ、

何も始まりません。

 

また、最初は面白がって

1 on 1 ミーティングが実施されたとしても、

継続することは困難です。

 

なぜなら、人間は飽きる動物なので、

自分の意思で

なにかを習慣化することは至難の技だからです。

 

ときどき、

「現場でやってみれくれている職員がいる」

と、新たな施策が自然発生的に始まることもありますが、

自然発生したものは、かならず自然消滅するものです。

 

本人たちに決定権を委ねれば、

必ず飽きが来て、辞めてしまうものだからです。

 

■しばしば、

「やってくれる人がいた頃は、行なわれていた」

という言葉を聞くことがありますが、

これは、

やる・やらない、続ける・やめるが、

本人たち任せなので、

「属人経営」

に該当します。

 

そして、これは、

組織がコントロールできていないので、

組織づくりとは言えません。


■つまり、

1 on 1 ミーティングのように、

「部下からの申し出があった時だけ行なう」

という手法は、やがて廃れてしまうので、

限界があります。

 

また、

申し出てこない部下を

組織に巻き込んでゆくことはできないという限界もあります。

 

ではどうすれば良いか?

 

■部下の意思を尊重しつつも、

組織による強制力が必要です。

 

意図的に行なわせることが必要です。

 

また、放っておけばやがて行なわれなくなってしまうので、

意図的に続けさせることも必要です。

 

ただし、

職員本人たちの中に、なんらかの

「このコミュニケーション、楽しい」

および

「このコミュニケーション、大切だ」

という動機がなければ、

やらされ感一色になってしまい、

良いコミュニケーションが行なわれ続けることはありません。

 

■部下の自由に任せていては、

良いコミュニケーションは生まれず、

まして継続されることはありません。

 

しかし、

強制しても、

やはり良いコミュニケーションにならず、

良い関係性が築かれることもありません。

 

1 on 1 ミーティングでないとすれば、

どんな方法があるでしょうか?

 

これからの

職員を活性化し組織の生産性を高めるための

組織開発においては、

その新しいコミュニケーション・モデルが

必要となると考えられます。

 

そのコミュニケーション・モデルについては、

またの機会に述べます。