「接遇向上強化月間」というドーピング

「接遇向上強化月間」というドーピング

■ときどき、

「来月は接遇強化月間なんです」

という話を聞くことがあります。

 

職員の意識を高めたいという気持ちは、わからなくもありません。

 

しかし、

レストランで

「来月は美味しく作る月間です」

と聞いたことがあるでしょうか?

 

美味しく作ろうと、いつも思っていて欲しいものです。

 

パイロットが

「来月は安全に操縦する月間です」

と言っていたらどう思うでしょうか?

 

安全に運行しようという意識を

片時も忘れずに業務に従事して欲しいものです。

 

さらには、

警察が

「春の交通安全運動週間です」

という時には、

街中各所で、物陰にパトカーが停まったり、やたらと自転車に乗っている人が声をかけられる、ということになります。

 

事犯を挙げることに血道をあげるのではなく、

普段から、予防に尽力してもらいたいものです。

 

つまり、

必要なことなら強化されなくても

普段からしなければならない、ということでしょう。

 

■では、

接遇意識は、常に必要なことなのか?

と疑問に思うでしょう。

 

実は、接遇意識は、

結果的に高まるならば意味がありますが、

「接遇を良くしよう」

という意識は不要です。

 

それよりも、職員の方々が、

普段から

「何かもっとできることはないか」

という意識を持っていることが大切です。

 

その意識が、

業務の効率や精度に向いた時には業務改善が生まれ、

リスクや違和感に向いた時には医療安全が向上し、

患者さんやご家族に向いた時には、心に寄り添ったあたたかい接遇が、

結果的に生まれるのです。

 

逆に、

何かもっとできることはないか」

という意識がない現場に、

「もっと接遇を」

と呼びかければ、

不満不平が噴出したり、

言外のフラストレーションがモチベーションを下げたり、

呼びかけた側との関係性が悪くなったりするだけでしょう。

 

■そもそも、接遇は花です。

 

蕾にだけ風や光や水を与えても、

その花だけは咲くかもしれませんが、

くたびれた花の後には、

実もつかないかもしれません。

 

本来、樹木は、

力強く根を張り、

幹が太くなり、

枝がのびのびと

葉がゆたかに生い茂り、

樹そのものが元気に育てば、

初めて生き生きとした花が咲きこぼれ、

そんな花からは、大きな実がなるのです。

 

樹木を元気にすることなく、

蕾にだけ手を加えて花を咲かせるのはドーピングでしかなく、

必ず、副作用や後遺症をもたらすことになり、

収益にもつながらないことでしょう。

 

同じように、

元気のない組織に接遇だけ強化するのは、

元気のない樹木に綺麗な花を咲かせようとしていることなので、

現場からは不満や不信の声が上がり、

モチベーションが下がって、

離職や生産性の低下を招くことになります。

 

接遇を向上したいのであれば、

職員のモチベーションを上げ、

職員がつねに

「もっとできることはないか?」

と考え、話し合い、目を輝かせて

みずから進化する組織体質にすることです。

 

そうなれば、

おのずとあたたかい、他の現場にない接遇が生まれるようになります。

 

元気な樹木には、

育てている人が気づかないようなところにも

たくさんの花を咲かせてくれるのと同じように、

元気な組織には、

経営者・上層部が気づかないような場でも、

たくさんの心温まる瞬間が生まれるのです。

 

■身体の傷はやがて治る様子がわかりますが、

心の傷を治すのは難しい、と言われます。

 

組織においては、

職員のやる気や組織との関係性といった心の不具合は、

簡単には改善しません。

 

ドーピングをして、無為に負担をかけるのではなく、

組織全体を元気にすることを考えることをお勧めします。