■以前のことです。
当時、各都道府県に病院を持ち、
誰もが知っている全国規模の公的団体で、
研修センターの研修責任者からの依頼でした。
港区の品川駅付近にある、
全国から職員が集まって学べる大きな研修センターで、
全国の傘下の病院から放射線技師が集まって受講するという
接遇研修で
講師を務めた時のことです。
午前の部が終わり、お弁当が出され、
研修センター長という男性と、
教育研修係責任者である女性も、
正面に並んで腰掛けて、同じ弁当を一緒にとり始めました。
するとやがて、その二人の話がバリウム検査の話題になり、
「うちのグループ内の技師でも、腕は色々ですよね」
「腕のいいところを選んだほうがいいですね」
「今度、船橋で受けようと思っているんです。
〇〇技師にやってもらおうと思って」
「わたしも、選んで頼むようにしている」
「〇〇さん以外は、ダメ。
他の技師はとても恐くて頼めませんよね」
「そうですね。良い技師も選ばないといけない」
「他に良い技師がいたら紹介して欲しいです。
「とりあえず〇〇さんに頼んでおくといいよ」
「〇〇さんにやってもらえるよう、お願いできると良いのですが」
「私からも頼んで、〇〇さんにやってもらえるよう連絡しますよ」
要するに、
全国最大規模のグループでありながら、
「グループ内のほとんど技師が安心できないので、
受診するのが恐い」
とのこと。
そして、
患者さんに技師を指名することはできませんが
教育研修係責任者は、自分だけは、
「人脈を駆使してでも技師を指名する」
と。
これは、
本人たちの本音だったとしても、
とても患者さんに聞かせることのできない話です。
そんな話を
接遇研修の合間に、
教育研修係責任者と研修センター長が、
わざわざ講師の目の前で、臆面もなく展開していることに驚きました。
■「本当に、現場を良くしたいと思っているのか?」
「意味のある研修を行なうことが自分たちの務めではないのか?」
「受講している技師の方々はじめ現場職員の方々に対して、
あまりにも失礼ではないか」
と、腹立たしさのあまり、
食事の途中から、弁当の味も無くなったことを覚えています。
また、日々、現場で力を尽くしている職員の方々が
気の毒に感じられました。
ひと思いに、
午後の講義を放棄して退出したい気持ちに駆られましたが、
全国各地から集まっている技師の方々の気持ちを思い
踏みとどまって、
午後の研修に向かいました。
その日、受講した技師の方々は、
講義後、質問に来られるなど、
熱心に受講してくださっていました。
■しばしば、
「研修部」
「研修担当者」
は、
場所と日時と講師を手配するなど、
研修をお膳立てするのが仕事になってしまい、
「研修で組織や現場をより良くする」
という本来のミッションを忘れてしまうことが見受けられます。
品川駅付近に研修センターを持っているような
全国規模の公的団体であっても、です。
そんな大きな団体だからこそ、
研修と現場が乖離してしまう可能性があるとも言えます。
■では、どうすれば良いのか?
少なくとも、
「患者さんに見せられないような実態や
患者さんに聞かせられない話があることが
おかしいことだ」
という違和感を持つことではないか、と思います。