■かなり以前のこと。
九州を訪れた時に、
シマサルナシという果物を紹介していただきました。
みずみずしく爽やかな味わいで、
きっと高級なフルーツなのだろう、と思ったことを覚えています。
食べながら、
「自分の家のベランダで作って、東京でまた食べられるだろうか?」
と考えていました。
もし、自分の家で果物を作るとすれば、
・プランターをベランダに置き、
・夏は日除け、
・冬は霜除け、
・栄養剤を注入し、
・こまめに水をやり、
・風が通るように気を配り、
……花を咲かせて果実を収穫することになりますが、
それは手間もかかり、
手入れも難しく、
なかなか収穫には至らなそうです。
ところが、聞いてみると、
日本国内でも南国の
海岸付近で、
条件の合うところでは、
びっくりするくらい自生しているのを
発見することがあるという話で、驚きました。
現地の方の話では、
「自生しているものは
味も香りも強いばかりか、
翌年また来れば、また採れる。
さらに伸びて、
より多くを採れることもあり、
みんなで分けることもできる」
とのことでした。
生き物は、
条件さえ合えば放っておいても、
元気に育つものなのでしょう。
逆に、
条件が合っていない状況の中では、
どんなに手を加えても、
それは無理を強いているだけで、
元気に育つことはない、ということです。
このことは、見方を変えれば、
「あれこれ手を加えて育てようとしているということは、
条件が合っていない状況の中で、
無理を強いているということであり、
もし元気に育って欲しいならば、
放っておいても良い条件を与えてやる方がはるかに良い」
ということです。
■ここからが本題です。
もし、部下職員に
大きく活き活きと育って欲しいなら、
部下をどうにかしようと無理を強いるのでは、
みなさんご自身も疲労するばかりか、
その結果、あまりうまくいかない、ということです。
むしろ、
みなさんが放っておいても良い
伸びる環境を見つけて、
部下職員の方々を放り込んだ方が、
はるかに効果的だ、ということでしょう。
「人は、教育によって育たず、環境によって育つ」
と言っても良いでしょう。
■「職員を育てる」
という言い方をする人は多いのですが、
「育てる」
という言葉は、
おそらくプランターで水やりというイメージに近くはないでしょうか?
「部下を育てる」
という考え方を卒業する……、
といっても、
「どんな状況におけば良いのか?」
そのカギは、
「代謝」
です。
みなさんが、手塩にかけて、あれこれ与えても
伸びる条件のない状況の中では、
そもそも部下職員は、
代謝(つまりOUT-Put)が悪いので、
吸収(つまりIN-Put)も悪くなってしまい、
健やかに育つことはありません。
そんな、
悪い環境や悪いタイミングの状況下では、
みなさんが、
いくら励ましたりご飯を与えても
しっかり食べてくれませんから、
背が伸びず、
表情は乏しく、言葉少なになり、
活力がなくなってゆくことになります。
■というわけで、
大切なのは、
成長させたいならば、
「成長に適した条件の中に放り込むこと」
です。
人は、身体でも精神でも、
代謝(OUT-Put)せざるを得ない状況になれば、
みずから吸収(IN-Put)する必要に迫られます。
植物ならば、
代謝(OUT-Put)せざるを得ない状況下では、
みずから
水や栄養を根から吸い上げ、
日の光や新鮮な空気や温度を求めて枝を伸ばし、
多くを吸収(IN-Put)して、
ひとりでに育って行くことになります。
誰かが手入れをしなくても、
勝手に育ってゆきます。
もちろん、栄養剤もいりません。
そんな生命力ゆたかな成長の末には、
大いに葉を繁らせ、
大地に広く根を張り、
揺るがない太い幹となり、
豊かな実をたくさんつけてくれることでしょう。
人間も同様で、
代謝(OUT-Put)せざるを得ない状況下では、
みずから
さまざまな資料を手に入れて調べ、
書籍やセミナーから情報を得て、
人に会いに行って学び、
現場を知るために体験しに出かけたりと
多くを吸収(IN-Put)して、
ひとりでに育って行くことになります。
誰かが教育や指導をしなくても、
勝手に育ってゆきます。
もちろん、研修や合宿を企画する必要もありません。
そんな生命力ゆたかな成長の末には、
大いに視野を広げ、
広く数多くの仲間をつくり、
揺るがない自信と信念を持ち、
予期しなかったような前進や改革を実現してくれることでしょう。
残念なのは、
世の中のほとんどの教育研修担当者が、
どんなテーマにするか、
どんな講師を呼ぶか、
どうしたら受講者が退屈しないか、
といった
IN-Putしか考えていないことです。
教育研修担当者こそ、
「自分自身がこれでいいのか?」
を考え学ぶべきでしょう。
ただ、それももとを正せば、
教育研修担当者が悪いわけでもありません。
経営者・上層部が、
教育研修担当者を、そのように考え学ばなければならない状況に
放り込んでいないからそうなってしまうのです。
研修が終われば、
受講者アンケートをとる程度で終わっているので、
教育研修担当者も
「教育(IN-Put)すれば良いのだ」
と勘違いしてしまっている、
ということが実態ではないでしょうか?
これからは、ぜひ、
「わたしが育てる」
という発想をやめて、