■上司が部下職員の力を充分に引き出すためには、
阻害要因になるものを
できるだけ取り除くことが大切です。
とはいえ、
「業務上の困難を解決してあげる」
という意味ではありません。
業務上の困難は、つねに現場にあり、
部下職員には、
むしろそれを乗り越える力を、身につけてもらわなければならないからです。
なぜなら、これから新たな困難が来るかもしれず、
また上司が休みの日にそれが降りかかるかもしれず、
どんな困難が起きてもうまく乗り越えるチームになってもらうためには、
業務上の困難は、
むしろ成長の糧とする必要があるからです。
この点は、念のため、確認しておきます。
■さて、問題は、
上司自身が阻害要因を作らないようにすることです。
というのも、人間の心理構造から見ると、
組織において、上司によって、
アクセルとブレーキを同時に踏まれることが、
思いの外、
部下のモチベーションを損なっている例が多々あるからです。
「これをしてほしい」
というアクセルを踏まれて、部下は一生懸命やったことを、
「やはり、要らなくなった」
と無にするような、ブレーキを踏まれてしまうと、
部下職員はモチベーションを失ってしまいます。
そればかりか、
「あとでブレーキが待っている」
と学習してしまった部下は、
以後、アクセルを踏まれても、
上司への不信感を持つので、
前進しなくなってしまうことすらあるのです。
■たとえば、
「この資料、明日の会議までに必ず作ってくれ」
と言われて、必死になって作ったにも関わらず、
「今日の会議、それは要らなくなった」
となれば、大いに不満に感じるのが、人情でしょう。
「あの件、ちゃんとやっておいてくれ、と言っただろう」
と叱責されて、一生懸命取り組んでいたところへ、
「そんなことはいいから、もっとこの件を進めてくれ」
と言われれば、
「指示通りにやったのに、なんだ!」
と反発する気持ちになることでしょう。
このようにアクセルを踏まれて前進したにも関わらず、
ブレーキを踏まれてしまうことは、
どんな人にとっても、
しかも真面目な人にとってはとりわけ大きな苦痛となるものです。
人間は、
無駄をさせられることに大きな苦痛に感じるものだという証左でしょう。
■そのため、上司が部下に何かを指示するときには、
明確に、
誤解のないように、
無駄をさせることがないように、
細心の注意を払っておくことが極めて重要となるのではないでしょうか。
上司が部下や組織を動かそうとするならば、
▶︎ゴール像を明確にして指示をすることと
▶︎その成果を検証すること
の2点を徹底することに尽きます。
この、
「ゴール像を明確にして指示をすること」
は、
部下に無駄をさせないという効率の観点からも大切ですが、
それ以上に、
無駄をさせられた体験によって、
部下が上司の指示に全力で応えなくなってしまい、
関係性が破壊されてしまうという大きな損害を招かないためにも重要です。
「あれをやれ」
と言っていたことを、後に
「そこまでやらなくて良い」
と言ったりしていませんでしょうか?
「何としても、成しとげよ」
と言ってやらせておきながら、
「その件は、もう要らない。早く次のことにかかれ」
と言ってはいないでしょうか?
アクセルとブレーキの両方を踏んでしまうことは、
上司部下の信頼関係を損ない、
組織としての機能を壊してしまうものであり、
「しない方が良い」
ではなく、
「決して、してはならない」
ことの一つであると言えるでしょう。