■9/3,4,5と連載したエピソード「新しい娘」を、
ご覧いただけていたら嬉しいです。
そして、
「いい話」
と感じられた方も多いと思いますが、
少しだけ、
この出来事から見えることについて、触れておきたいと思います。
というのも、
「収まったのは、その患者さんだったからだろう」
と考え、
応用できることはない、と感じる方もあるかもしれないからです。
たしかに、人間同士のことは、
「こうすれば絶対に良い」
という魔法の杖はありません。
また、良い話を解説することほど無粋なことはありませんが、
今後の実践にいくばくかなりとも参考になれば、
嬉しいです。
■シンプルに結論から述べれば、
この出来事の顛末からは、
「本人以上に真剣であれば、クレームは生じない」
ということが、改めて知らされたように思います。
クレームとは、
患者さんやご家族にとって重大なこと・深刻なことについて、
その重大さ・深刻さを理解しているように見えない職員に対して起こるものです。
クレームする方が、
声が大きくなったり、
話が長くなったり、
院長を出せと、ややこしい話をしだしたりするのは、
「この職員はまったくことの重大さをわかっていない。
それをわからせてやらなければ」
という思いが高じるからに他なりません。
■逆に、職員が自分と同じくらい真剣に苦悩してくれていれば、
患者さんやご家族は、
わざわざ大声を出して職員を責める必要がありません。
こんなに真剣に受け止めてくれるのなら、
きっと、この職員なりに最善を尽くしてくれることだろう、と思うからです。
もし、要望や不満があっても、
それは病院組織や環境、運命に対する感情であって、
眼前の、真剣に考えてくれている職員に対してではありません。
むしろ、すでに真剣に受け止めてくれている職員に対しては、
「こうしたいのだけれど、どうだろうか?」
「この点が残念で仕方ないのです」
というように、
クレームではなく、
ことごとく、相談という形になるのです。
したがって、
あくまで「理論的には」ですが、
「本人以上に真剣であれば、クレームは生じない」
と言えるのではないでしょうか。
■患者さんやご家族が、
「こんなに自分と同じくらい真剣に苦悩してくれている人を
責めても仕方ない」
と感じれば、
職員に対してクレームする怒りは薄らいでゆき、
さらに、
「こんなに自分の気持ちをわかってくれる人はいない」
と感じれば、
むしろその出来事がきっかけで、
「この人は誠実だ」
ということになり、かえって厚い人間関係が生まれることにもなるのです。
たとえ「取り返しのつかない事態」であっても、です。
したがって、このように考えてみると、
「誠実とは、本人以上に真剣であること」
と言うことができるのではないでしょうか。