この数年、
「年々、若手の成長が遅くなっている」
といった声をよく聞くようになりました。
これは、医師、看護師、理学療法士ほか、
あらゆる職種に共通しています。
ある病院の医長は、
「自分が新人の頃には
何十回とやってきた業務を
新人の医師に指示すると、
『まだ3回しかやったことがないんです』
という返事が返ってきて
驚くことが、しばしばある。
自分の頃と同じように、
いまの新人もできるものと思って指示をすると
事故になりかねない。
毎日、冷や汗をかいている」
と話していました。
また、そんな若手医師自身も、
「遅くまで残って記録をつけて帰るという
ことができないので、
そのスキルが身につかない。
関わったすべての患者さんについて
記録をつけることができないとしても、
せめて、
主な数名の患者さんだけでも
継続して記録をつけてゆくことが
できたら」
と、懸念していました。
看護師については、
また別の医師によると、
「以前は、
看護師の方からもっと提案された。
今はそれが少ない。
看護師からの提案や相談が
確実に減ってきた」
と、やはりスキルが落ちているとの
ことでした。
◾️なぜ、そうんな傾向になっているのか?
まず1つは、
残業ゼロへの動きです。
2016年ごろまでは
「やってもやっても業務が片付かず、
みんなが疲弊していた」
そんな時代でした。
その後、働き方改革関連法改正などで、
一気に
「残業ゼロへ」
と舵が切られ、
終業時刻後には早く構内から退出するべき
という風潮になりました。
2つ目はコミュニケーションの減少。
2020年になると、
コロナパンデミックで、
会議も親睦会も会食もなしに。
大学でコンパを経験したことがない人たちが
新社会人として、
職場に入ってきました。
3つ目は、
一切の強要を禁止する風潮です。
同年、いわゆるパワハラ防止法が施行。
おかげで、
ブラック企業が激減したり、
パワハラ上司が減少し始めたりと、
一定の効果はありました。
しかし、
その結果、昨今は、
「業務に必要な学びは、
上司の指示のもと、
就業時間内で、
報酬の裏づけがあって行うもの」
という風潮になりました。
「上司の指示もないのに、
就業時間外で、
報酬もなしに学ぶのはおかしい」
という感覚すらあります。
まして、そんな中で
上司が自己研鑽を促すことは
望ましくないとさえされ、
場合によっては
ハラスメントの嫌疑を受けかねません。
結果、
多くの業界・多くの現場・多くの職種で、
年々、
社員・職員の技能が低下しています。
技能どころか、
基本行動などのしつけ的な指導まで、
上司や先輩がやりにくく、
萎縮している例もあります。
それは、
誰よりもみなさんご自身が
肌で感じていることでしょう。
◾️そうした結果が、現在です。
しっかり指導しようとしても、
昨今の若手は、
「いま、いいです〜」
と断る自由が保証されています。
「教えるから時間をとって」
と強要すれば、
ハラスメントにされかねません。
教える側が教えるべきだから教える
いわゆる「教育」は
もう存在できない
「教育終焉の時代」
になったのです。
あるのは、若手本人が
「学びたいのでサポートしてほしい」
と申し出があった場合の
成長支援だけ。
上層部・幹部からは
「そこを、
本人が学びたくなるように
うまく誘導するのが
リーダーや管理職の仕事だ」
と言われることもあります。
上層部や幹部は、
部下たちが物分かりの良い時代に
生きてきたため、
現場のリーダーや管理職の
やりにくさがわからないので当然です。
なので、
リーダー・管理職の本音は、
「それができたら苦労はしない」
「時代は完全に変わった」
「じゃあ、あんたが育ててみろよ」
となるというわけです。
「まさに!
『じゃあ、あんたが育ててみろよ』
と言いたい!」
というリーダー層の方は少なくありません。
◾️というわけで、
多くの管理職・リーダー層は
若手に対して
「スキルは向上させなければならない」
しかし
「強要はできない」
という板挟みの状況にあります。
ではどうすれば良いか?
結論は一つ。
「自分から学びたくなるように導くこと」
これしか、出口はありません。
本人たちから頼まれて教えるならば、
ハラスメントにならないどころか
感謝されます。
若手本人も、
自分から学ぶのですから、
教わったことは確実に現場で活かします。
実は、このことこそが、
病院を良くするための
センターピンにほかなりません。
◾️どうすれば、
「職員が自分から学びたくなるように
導くことができるのか?」
これが、
「教えない教え方」
です。
「どうすれば教えずに教えられるのか?」
その方法には
いくつものバリエーションがあり、
「教えない教え方」
を設計する上では
いくつかのポイントがあります。
今回は、そのポイントだけ
挙げておきましょう。
まず、鉄則の一つは、
「上司先輩ができるだけ、
部下後輩の視界に入らない方法を探す」
です。
それは、
上司先輩バイアスを感じさせないようにして
「課題に直面させる」
というもう一つの鉄則でもあります。
前提として、
「人は、痛みを感じなければ行動しない」
と理解しておく、という鉄則があります。
ただし、人は、
現在の痛みには敏感ですが、
将来やってくる痛みからは
目を逸らそうとしがちです。
「このままじゃ、
あなたが中堅になった時に通用しないよ」
と先輩が言っても、
すぐに行動が変わらないのは、
そのためです。
患者さんが、
健康診断を受けたがらないのも
そのためです。
では、どうすれば良いか?
「将来の痛みが、
それとなく本人の視界に入るようにする」
ということになり、
これも鉄則の1つです。
ところが、我が国の企業組織では、
永年のトップ・ダウン文化が
縦割り意識を醸成しているため、
多くの職員が、
自分の手元しか見えていない
視野狭窄に陥っています。
「それ、私の仕事じゃありません」
という言葉を口にするのは、
まさに
「自分の手元しか見たくないです」
という視野狭窄の現れです。
また、
「民間病院の69%、
自治体病院の95%が赤字」
と聞いても、
職員たちが慄然とすることもなく、
まして、
すぐにみんなで経営に関する検討会を
開くこともないのも、
自分の業務・自分の部署しか
見えていないからにほかなりません。
なので、その状態を変えて、
部下後輩の視野を広げる必要があります。
「自分の業務以外のことも
視野に入れて考えるのが当たり前」
という組織文化を作ること、
これも鉄則の1つです。
例えば、職種を超えた研究会や
サークル活動などが盛んでしょうか?
「やっている人もいるみたい」
は、マネジメントではありません。
そういう組織文化を
意図的・作為的・計画的・継続的に
構築していくマネジメントをすることが
必要です。
こうした、
「担当業務以外のことに触れる組織文化」
を醸成するのも鉄則の1つです。
最後に、
本人が課題を自分ごとにする効果絶大な
強力な「やる気のスイッチ」を
挙げておきましょう。
それは、
「エンドユーザーに接触させる」
です。
今回は、
各論を詳述できませんでしたが、
今後も、機会があれば、この
「教えない教え方」
とそのポイント、具体的な方法を
紹介してゆきます。
