「かならず」か「できれば」か、が見られている

「かならず」か「できれば」か、が見られている

■組織の運営には、2つの側面があります。

業務マネジメントと組織マネジメントです。

 

業務を正確迅速安全に行なう管理を業務マネジメントと言います。

 

これさえやっていれば良いというのがこれまでの時代でした。

 

しかし、これからは、

業務をする中で、さまざまな課題が発見されるので、

その中で導き出されるさまざまな改善策を実践して、

どんどん改善して行けるような、

成長できる組織をつくることが求められる時代です。

 

そうしたみずから成長できる組織体質づくりを組織マネジメントといいます。

 

したがって、

管理職は、

業務マネジメントとともに、組織マネジメントをすることがミッションとなるのは明らかでしょう。

 

ただし、管理職は(他の一般職員もほぼすべて)、

業務マネジメントだけすれば良いと考えていて、

組織マネジメントが求められているという実感をもってはいない、というのが実情でしょう。

 

というのも、現実には、

管理職に対して、経営者・上層部が、

「組織マネジメントもミッションだよ。本気でやってね」

と伝えきれていないからです。

 

■ところで、、

どちらの病院にも、理念があります。

 

その理念の中には、

「安心安全な医療を提供します」

といった業務マネジメントによって実現される部分もあれば、

「心に寄り添う、あたたかい、愛される病院」

といった、職員の哲学をうたった組織マネジメントによって実現される部分とがあります。

 

改めて確認ですが、経営者・上層部の方々は、

その理念は、すべて

「かならず実現させるべきもの」

と考えているでしょうか?

 

それとも、

「できれば実現してほしいもの」

と考えているでしょうか?

 

「かならず」なのか「できれば」なのか?

 

つまり

「経営者・上層部が本気なのかどうか?」

職員の方々は、つまるところ、そこを見ているからです。

 

「冷静と情熱のあいだ」

という小説がありましたが、

医療現場には、「かならずとできればの間」はありません。

 

たとえば、経営者・上層部が、

「必ずというほど重くはないが、できればというほど軽くない」

と考えていても、現場職員の方々は、

そんな都合の良いニュアンスを受け止めてはくれません。


「かならずでないなら、やりません」

となるのです。

 

なぜなら、

「やる」

となれば、業務に割くべき時間と労力を割いて、やることになり、

それは、業務のための効率や精度を下げてしまうリスクを伴うからであり、

効率や精度を下げずに新たなことをするならば、多大な負担がかかるからです。

 

■しかし、多くの経営者・上層部が、

「できればではない。ちゃんとやってほしい」

と考えながらも、

「かならず」とも言い切る勇気がない

という傾向があります。

 

これでは、現場職員は、

「かならず」じゃないなら、やりません、

となるものです。

 

とくに医療現場は、担当する業務一つ一つが間違いの許されないものなので、

もし勤務中に余裕があれば、

その余裕も全て業務に注ごうとする傾向があるからです。

 

なので、

「できればやって」

は最もよくないフレーズです。

 

現場職員の立場としては、

「できればやってほしいということは、

できなければやらなくてもよいということであり、

そんなことをやるほど、あたしたちは暇じゃない!」

「そんな余力があったら、

かならずしなければならないことに全力を注ぎますんで。

それがプロなんで」

と胸を張って答えたいところでしょう。

 

にもかかわらず、経営者や上層部は、

組織マネジメントに分類される「組織体質づくり」の部分については、

「かならず実現してくれ」

と言い切らないことが多々あります。

 

業務マネジメントは、月々の経営指標として数字が上がってくるので、

きっちり検証され、評価報酬に反映されますので、

職員に対して

「かならず実現してくれ」

ということは確実に浸透しています。

 

「施設基準を損なわないよう、実態を死守してくれ」

ということは、

きっちりと職員に浸透していることでしょう。

 

それは、管理職に、

業務マネジメントのミッション実現は

「かならずだ」

ということが伝わっているからです。

 

ところが、

「職員をこのように育てて欲しい」

「こんなモチベーションを持たせて欲しい」

「患者さんにはこんな気持ちで臨んで欲しい」

といったみずから成長できる組織体質を目指すといった組織マネジメントのミッションについては、

「かならず、この水準を死守しなければならない」

と理解している管理職も部下職員も、なかなかいないのではないでしょうか?

 

そもそも、経営者・上層部が、

「かならず、この水準を死守せよ」

と伝えていないのではないでしょうか。

 

まして、その結果を検証し、評価報酬に反映してはいないのではないでしょうか。

 

「かぎりなく透明に近いブルー」という小説がありましたが、

しばしば、経営者・上層部の方々が、現場に対して、

「かぎりなくかならずに近い、できればです!」

というアプローチをしている様子が見受けられます。

 

しかし、職員からすれば、

「どれだけかならずに近かろうとも、できればはあくまでできれば」

です。

 

評価報酬に反映されてしまう業務のために割きたかった

時間と労力を割いてまでも、

「やるのか、やらないのか?」

の二者択一なのです。

 

「やる」となれば、

業務を押しのけ、無理してでもやることになるのですから。

 

■つまり、

経営者・上層部もまた、実は二者択一を迫られているのです。

 

「できればなのか、かならずなのか」

どちらの意思表示をするのか、の二者択一です。

 

「そのあいだ」

とか

「かぎりなく近い」

というずるい表現は通用しないのです。

 

組織マネジメントについても、

「かならずやってほしい。本気だ」

ということを示すならば、

具体的には、

業務マネジメントと同じように、

検証し評価報酬に反映しなければなりません。

 

業務と同じように、

結果を検証され、評価報酬に反映されるのであれば、

職員は、

「業務に向けていた時間や労力を割いてでも、

なんとしてでも実践しなければならない」

と初めて理解することができます。

 

■では、どのように検証し、評価報酬に反映するか?が問題となるでしょう。

 

業務マネジメントの検証は、日々上がってくる経営指標によって可能です。

 

一方、

組織マネジメントの検証は、現場の文化を検証することなので、

「日々、どんな言動が生まれているか?」

「どんなことを実践したか?」

が原資料となります。

 

業務マネジメントと異なり、

もし、結果が出なかったとしても、

チャレンジしているという事実をキャッチし、

きちんと評価することが必要となります。

 

一般には、

結果が出た時だけ表彰する習性がありますが、

それでは、職員たちは、

「結果が出なければ評価されない。結果がでるという保証のあることしかできない」

と職員が萎縮してしまいます。

 

まして、

部署を巻き込んでみんなでする改善などは、

同僚にもリスクを負わせることになるので、

とても怖くてできない、ということになってしまいます。

 

こんなことでは、

「自分から考えて実践する」

という、チャレンジングなチームを作るといった組織マネジメントはできません。


つまり、みずから成長できる組織体質を創ることはできないのです。

 

なので、結果が出ないことでも、何もしないよりも大いに評価して見せることが必要となります。

 

■このように、

「チャレンジすることが美徳だ」

ということを示さなければ、業務だけではない自発的・能動的に前進してゆく組織づくりはできないのです。

 

では、

「気づいた」

「提案した

「チャレンジしてみた」

といったことを、結果も出ていないのに、どのように検証できるのか?と思うでしょうか?

 

そのためには、

日常的に、随時、

「こんなことに気づいた」

「こんな提案をしてみた」

「こんあチャレンジをしてみた」

といった発信を、各職員から上げてもらえば可能となります。

 

評価のための情報は上司が集めて回るという、

原始的な考え方では、

上司の予期しなかった自律進化の検証などできませんが、

 

上司が予期しなかったことが生まれているかどうかの情報が集まるようにするためには、

部下職員たちから自己申告させることで可能となるからです。

 

「そうはいっても上げてくるだろうか?」

と思うでしょう。

 

そこを、

日常的・習慣的に上げてくるようにする方法があります。

 

それが、患者サービス研究所が提唱している

HIT-Bit

という手法です。

 

■HIT-Bitを実施すると、

予期しなかった問題提起や改善提案、実践がどれだけ生まれているかが、

日々、部下職員から上がってくることになります。

 

それをもって、

自律進化がどれだけ生まれているかを客観的に定量評価できるので、

検証し評価報酬に反映することができます。

 

この「客観的な定量評価に基づく検証」が可能になることによって初めて、

組織体質をつくる組織マネジメントも、

業務マネジメントと同じだけ重要なミッションであり、

「経営者・上層部は本気なのだ」

ということが管理職・職員に伝わるので、

組織マネジメントも、組織的に実現できるようになるのです。

 

もはや

「かならずとできればのあいだ」

とか

「かぎりなくかならずに近いできれば」

などといった曖昧な態度では、

組織の体質を変えることはできないのです。