■以前、勤務していた会社にいた頃、
こんな研修がありました。
3時間程度を費やして、行なわれたと記憶しています。
まず、あるシチュエーションが語られます。
あなたは、無人島に漂着しました。
周囲を見渡すと、次にあげる物が目に入ります。
ロープ
水
手鏡
パラシュート
シート
懐中電灯
磁石(コンパス)
ピストル
……など10点
この10点、研修会社によって、内容はやや異なるようです。
そして、まず、
受講者は、誰とも相談せずに、まず自分ひとりで、
「生き延びるためには、どれが重要か?」
順位づけをします。
受講者は、
暮らすこと、誰かに助けを乞うこと、寒暖に耐えることなどを想定して、順位づけをします。
次に、5〜8名程度のグループに分かれて、
もう一度、
20〜30分程かけて相談して順位づけをします。
ここで、
「ああでもない、こうでもない」
と理屈をつけたり、
自分の価値観を話したりして、
グループの総意としての順位を決めます。
水を飲むものとも、浴びるものとも、捲くものとも、
さまざまな使い道が飛び出します。
ピストルも、撃つ道具としてだけではなく、
重りにするという意見があったり、
手鏡も割ればナイフがわりになるとか、
懐中電灯も解体すればレンズを使えるとか、
話し合ってみると思いがけないアイディアがどんどん出てきます。
およそ正解というものは無いのだろうと思いながらも、
話し合う中、
納得したり険悪になったりしながら、
順位を決めてゆきます。
さて、各グループの答案が出揃ったところで、
答え合わせに入ります。
答えといっても、
「NASAのパイロットが話し合ってたどり着いた順位づけの結果」
のことです。
まず、個別につけた順位づけと、
NASAの答案との突き合わせ。
もちろん、相違点がたくさんあります。
次に、グループで話し合った順位づけの結果と、
NASAの答案との突き合わせ。
不思議なことに、
個別につけた時よりも、
グループで話し合った順位づけの方が、
NASAの順位づけとの差が少なくなっている、という結果になりました。
そこでインストラクターが言います。
「このように、みんなで話し合えば、
体験したこともない状況においても、
より良い回答にたどり着くことができるのです」
話し合った方が良い結果を導き出せるので、
今後も職場で話し合いましょう、ということです。
NASAが開発したという
「コンセンサス・ゲーム」
です。
かくして、
翌日から、わたしのいた職場では、
確実に、活発に話し合うようになったのでした。
……ということは、もちろん、ありませんでした。
■また、ある時、こんな研修もありました。
ボードゲームです。
5〜6名がボードを囲んで座り、
各自に同じ額のお金(模擬紙幣)が配られます。
一人ひとりが経営者、というわけです。
そして、
カードをめくっては、そこに書かれた権利を行使したり、
一回休みを被ったりします。
物品を購入する
人を採用する
工場を建設する
他社と交渉する
など、さまざまなアクションをしますが、
そのアクションが、
それぞれにいくつかの影響を及ぼすことになり、
キャッシュフローが減ったり、
人材が流出したり、
売り上げが伸びたり・・・、と
一長一短のさまざまな副作用をもたらします。
それを続けるうち、
栄える会社、廃れる会社と分かれてゆく、というプロセスを体験します。
人生ゲームの大人版といったところでしょうか。
そのゲームをした後、
受講した社員がみな経営的視点を持つようになり、
会社が大いに栄えてゆきました。
……ということも、もちろん、ありませんでした。
■もし、
「話し合うことで生産性が上がる」
ということを体験させたいならば、
コンセンサス・ゲームをさせるよりも、
いまいる部署で、
思いがけない意見を出し合って結果を出させる方が、
はるかに価値があることでしょう。
また、経営感覚を体験させたいならば、
独立採算の事業を任せる方が、
多くを学ぶことでしょう。
会議室で
テーブルを並べて、
話し合ってみたところで、
社員が体験しているのは、
「楽しいゲームをした」
という時間に過ぎないのです。
「うちは楽しいゲームをさせてくれる牧歌的な会社だ」
ということを、身をもって学習するのです。
気分のリフレッシュにはなる可能性があるので、
福利厚生には良いかもしれません。
■このように、
「仮想体験で学べます」
と、
現場から会議室やゲームへ視点を向けさせるコンサルタントもいますが、
本当に学ばせたいなら、
「現場で学ぶ」
方法を選ぶことをお勧めします。
本当の課題も、その課題に最もふさわしい答案も、
現場にあるのですから。