■「馬を水辺に連れてゆくことはできるが、
水を飲ませることはできない」
という表現があります。
たしかに、
どんなに水辺に連れて行っても、
馬自身が水を飲んでくれなければ、
人が無理矢理に水を飲ませることはできないものです。
「人間は、店に入れば水が出てくるので
つい飲んじゃうっていうクセがあるかもしれないけど、
おれたち馬は、店に入らないから、
水辺に来ればつい飲んじゃうクセなんか無いからな!」
と、馬から聞いたことも一度や二度ではありません。
では、
「馬に水を飲ませたい」
と思った時にも、
人間はあくまで、
「馬が水を飲む気になってもらうのを待つより他ない」
のでしょうか?
■これは、
「どのようにすれば、職員のモチベーションを上げることができるか?」
と、同じ問いかけとも言えます。
もし、職員が、指示・命令によって動くのではなく、
みずから気づき、考え、話し合い、実践することができれば、
まさに、
「自律進化組織」
であり、こんなに素晴らしい組織はありません。
では、
こうした
「自律進化行動」
を生み出すためには、どうすれば良いでしょうか?
■そこで、
「自律進化行動の設計図」
を、表のようにまとめてみました。
馬に水を飲ませるためには、まず、
「馬が水を飲みたくなるようにする」
環境を実現すれば良いのです。
具体的には、
運動をさせたり、暖房の利いた厩舎に入れるといったことでしょうか。
この環境を、
その後の結果のすべてを生み出すスイッチとなるので、
「スイッチ環境」
とでも呼びましょう。
すると、馬は必ず喉が渇くという「痛み」を覚えます。
痛みを感じれば、誰でも防衛本能が作用するので、
痛みを解消したいために、
「水を飲みたい」
という欲求が生まれます。
あとは、その欲求が充分に強烈であれば、
実際に、
「馬が、厩舎を飛び出す、水辺へ走る、水を飲む」
といった行動を必ず惹起します。
つまり、
このように行動までの因果関係を因数分解してみれば、
①スイッチ環境を実現すれば、
②スイッチ環境が痛みをつくり、
③痛みが顕在化すると、
④防衛本能が作用し、
⑤痛みの解消行動につながる
と、
ピタゴラスイッチのような公式が成立する、ということが言えるのです。
■とすれば、
職員を動かし、組織を巻き込む場合にも、
同じピタゴラスイッチの公式が有効となることでしょう。
まず、
①職員が「自分自身の力不足を感じる」または、「他者からマイナス評価をされる」というスイッチ環境を実現すれば、
②職員は、その環境に直面することで「このままではいけない」と認知します。
③その結果、「このままではいられない」という「痛み」を覚えるに至ります。
④痛みが鮮烈で鋭い痛みであるほど、無条件反射的に「防衛本能」が作用するのが、生き物すべてに共通する生理現象です。
⑤防衛本能は、当然、身体活動(つまり具体的な「痛みを解消する行動」)となって表出し、
痛みが解消するまで、他の誰かが見ていようと見ていまいと、誰かに強制されようとされまいと、持続することとなります。
何しろ、鮮烈に痛いのですから。
■①のスイッチ環境を実現すれば、自動的に②、③、④と因果関係が連鎖し、⑤の痛みの解消行動が必ず起こる、というピタゴラスイッチです。
多くの組織の現場では、
直接、⑤「こういう行動をしなさい」を求めている気がしないでしょうか?
あるいは、④「こういう行動をすべきではないか?」と説得してはいないでしょうか?
もしくは、③「このままではいけないだろう?」と、説明によって危機感を持たせようとしていないでしょうか?
または、②ダイレクトに「痛みを感じさせるにはどうしたら良いか」を考えたりはしていないでしょうか?
特に、②については、「環境を設ける」ようにすることが重要なのにも関わらず、
管理職や上席者が、ダイレクトに「痛みを感じさせよう」として、部下職員を責めたり詰問したり、恥をかかせようとするケースをしばしば見かけますが、
これは部下との関係が悪くなるり、
重要な意思疎通までができなくなるだけです。
本当に人を動かし、組織を巻き込むためには、
これら⑤④③②を起こそうとするのではなく、
因果関係の最上流にある①にアプローチすることが不可欠です。
この、
「①スイッチ環境を実現すれば、あとは自動的に、⑤痛み解消行動が起こる」
というシナリオが、
「自律進化行動の設計図」
です。
■なお、
もちろん、
「どのようなスイッチ環境をデザインすれば良いのか?」
は、
「どのような痛みの解消行動を起こさせたいのか?」
によって、個別具体的に異なります。
しかし、いずれにしても、
「⑤④③②といった直接的な働きかけを考えてしまわないこと」
を、今回は心に刻んでおいてください。
そして、
最上流の①「スイッチ環境」から設計することを
忘れないことをお勧めします。