「変わらないことが恐い」時代

「変わらないことが恐い」時代

■改革をしようとすれば、

必ず、現場からは、

「うちの部署は充分できている」

「問題はない」

といった保守的な声が聞こえて来ます。

 

その傾向は営利企業よりも顕著です。

 

その理由の1つは、

医療という分野が、

つねに失敗が許されない領域だからでしょう。

 

失敗をしないためには、

正しいとされる方法があり、

それを徹底することに全力を注ぐべきとされるからです。

 

しかし、これを徹底すると、

いかなる進歩も現場からは生まれないことになってしまいます。

 

実際、医療現場よりも

他業種・他業態の方が柔軟です。

 

理由のもう1つは、

日々変化しなくてもやってこれたからでしょう。

 

「変わらないことが当り前」

でも充分だったのです。

 

たとえば、看護部は、

さまざまな現場の経験を持った看護師の方々の集まりです。

 

もし現場に進化するのが当り前の風土があったら、

「みんなの前職場の良い知恵を、ぜひここでも取り入れたい。

これまで身につけた知見をどんどん紹介して欲しい」

という考え方がスタンダードになっているはずです。

 

しかし、現実は、多くはその反対で、

「ここではここのやり方があるので、

前職場のことは忘れてちょうだい」

という、

新しいことを持ち込みにくい風土であることが一般的です。

 

このことは、みなさんもよくご存知でしょう。

 

このように、多くの医療現場では、

「変わらないことが当り前」

の体質が染み付いていると言えます。

 

もちろん、

医療業界の他にも同様の傾向が見られる業界は

いくつもありますが。

 

しかし、この傾向を変えなければなりません。

 

■医療業界にも、

「変わることが当り前」

の文化に切り替えなければならない時代が到来したのです。

 

変わることが当り前であれば、

現場からより良くするための新しい意見や取組が

どんどん生まれて来ます。

 

管理職は、

「この1ヶ月でどんな新しい意見や取組があったか?」

と、とっさに聞かれても、

いくつか具体的に答えることができる…、

それが

「変わることが当り前」

の組織体質です。

 

■しかし、

いまだに医療現場では、

「なぜ、変わることが当り前にならなけれなならないのか?」

という思考が一般的です。

 

そこで、

「変わることが当り前となるべき理由」

を挙げておきます。

 

▶︎まず、みなさんもご存知の通り、

人口動態を見れば、

人口減少しつつ高齢化率が上がってゆき、

人口構成は、いわゆる逆三角形となることが知られています。

 

人口増加と経済成長に支えられていた時代には、

社会全体が好景気で、

医療業界も経営しやすい環境でした。

 

しかし、いまは違います。

 

少子高齢化によって、

高齢者人口は増えないものの、

労働者人口が急激に減るので、

財政が大きく圧迫されており、

国民医療費は42から43兆円にのぼっています。

 

そのグラフには、介護に関する社会保障費は

加えられていませんが、

それを書き加えれば、もっと深刻なグラフになっているでしょう。

 

この国民医療費の伸びを抑えたいのが政策方針です。

 

一般に、ビジネスにおいては、

顧客数 × 客単価 = 売上

とされていて、

売上を上げるには、顧客数か客単価のどちらかを伸ばすことを考えるのが定石となっています。

 

これと同様に、

患者数 × 診療費 = 国民医療費

となっているので、

国民医療費を下げるには、世の中の患者数か診療費のどちらかを抑えることを考える、ということになります。

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そして、現実には、

その両方を抑える政策が進められて居ます。

 

すなわち、

患者数を抑えるために、

早期退院を促進したり、

在宅医療への誘導が強力に推し進められていて、

「できるだけ、病院にかかるな」

という力が働いています。

 

それどころか、病床数を削減することによって、

患者さんがかかる先そのものを無くす方向に

なっています。

 

同時に、診療費を抑えるために、

ジェネリックを推奨することはもちろん、

診療報酬点数そのものが

例年、一貫して、引き下げ続けられています。

 

それでいて、

患者さんの窓口負担割合は増える一方です。

国民皆保険によって1961年(昭和36年)以降、

我が国の、

お金の心配をすることなく健康を守ることができていた

優れた社会保障基盤は、

60年の歴史を経て損なわれ、

 

いまや、

「医療費を払うのが大変だから」

と、多くの生活者が、健康よりお金を心配して

「受診控え」

をするという時代になってしまっているのです。

 

そして、

医療現場の方々ならば、

この傾向がこれからも続くことはご存知です。

 

「なぜ、変わることが当り前にならなければならないか?」

 

それは、職員の方々が悪いわけでも、

業務ができていないわけでもなく、

「外部環境が、時々刻々、急変しているから」

に他ならないのです。

 

いわば、

部屋の中にいると気づきにくいですが、

「外が日増しに寒くなっている」

という状況なのです。

 

日増しに寒くなっているのに、出かける時に

「なぜ昨日と同じ服ではダメなのか?」

と言っていては、まもなく身体を壊してしまいます。

 

いま、徐々に身体の芯が冷えつつあるのではないでしょうか。

 

そして、生活習慣病のように、

油断していて、

いつのまにか凍えてしまっていた、というのが

2019年9月26日に厚労省が公表した

「再編検討を勧める自治体病院・公的病院

424のリスト」

です。

 

毎日毎日、確実に外の気温が下がっている中、

なぜ、

「なぜ、昨日と同じ服じゃダメなの?」

と言っていられるのでしょうか?

 

これほど、大々的・継続的に、

外部環境が厳しくなっていることが伝えられているのに、

なぜ、

「なぜ、これまで通りじゃダメなの?」

と言っていられるのでしょうか?

 

いつのまにか凍えて、

意識が朦朧とし、身動きが取れなくなってしまっては、

手遅れです。

 

「すぐにでも統廃合か、身売りか、

あるいは閉院しなければならない」

あるいは

「すぐにでもリストラしなければならない」

と、

取り返しのつかないことになる前に、

 

いまから、どんどん変わってゆかなければ

外の寒さについてゆくことはできません。

 

■日増しに寒くなっているのですから、

「昨日よりも、一枚多く着るのが当り前」

にならなければなりません。

 

医療業界を取り巻く外部環境が

日増しに厳しいものになっているのですから、

「変わることが当り前」

とならなければなりません。

 

新しい施策の話が出て来た時に、

驚くのではなく、

歓迎する感覚がなければなりません。

 

「変える必要があるんですか?」

と言っているようでは、

毎日、薄着のまま極寒の外に出てゆくようなもので

自殺行為です。

 

もし経営者が新しい施策の話を一切しなければ、

「うちは大丈夫か?」

と不安を覚える感覚がなければなりません。

 

このように話しても、

人間の感覚はすぐには変わりません。

 

なので、

ぜひ、1日も早く、今日からでも、

経営陣が、組織全体へ

「変わることが当り前の組織へ」

と宣言し、

舵を大きく切ってゆくことをお
勧めします。

 

そして、みなさんが

現場の管理職に、いつ

「この1ヶ月でどんな新しい意見や取組があったか?」

と聞いても、

管理職の方々がみな、いつでも、

「いろいろあります。聞いてくださいよ!」

といくつも、具体的に答えることができる…、

 

そんな

「変わることが当り前」

の組織体質を実現されることをお勧めします。

 

いま、みなさんの現場の職員の方々の中に、

「変わらないことが恐い」

と感じることのできる人がどれだけいるでしょうか?