■病院でも、ホテルのように、
外来に、コンシェルジュやフロアマネージャーという人を配置する例があります。
そういうスタッフがいないよりは、いた方が、
患者さんにとっては、
「便利な病院」
と映るでしょう。
そして、それだけでは、
感謝されることはありません。
なぜなら、患者さんは、
「この病院は、そういう予算をとれるほど、儲かっているのだろう」
という想像しかできないからです。
そもそも、
内装、人員、施設設備、アメニティなど、
お金をかけてホスピタリティを高めようという発想は、
いずれも、
病院の台所事情を知るよしもない患者さんからは、
「予算をとれるだけ、儲かっているのか」
と理解されてしまうので、
実は、
病院側が支払っているほどの苦労を察して患者さんが感謝する、ということはありません。
2回目以降は、
「前回はやってくれたのに」
となり、
感謝されるどころか、
サービスがあることが当り前になってしまう、という副作用もあります。
みなさんも、買い物をする時に、
「利益還元セール」
があると、ないよりは嬉しいけれど、
「よく考えてみたら、
それだけ儲けているなら、普段から還元してほしい」
と思うことでしょう。
つまり、
「お金をかけたり物品を費やすほど、
提供する側の想いは伝わらない」
というわけです。
患者さんに想いを伝えるためには、
お金を使わないならば、
「気を遣う」
ことになるのは、想像されたことでしょう。
その通りで、
フロアマネージャーやコンシェルジュなどのサービス専従担当者がサービスをするのではなく、
受付・会計・外来クラーク、通りかかったスタッフなどが、
忙しい中、可能な時に患者さんのサポートをする方が、
はるかに、患者さんからは感謝されるのです。
サービスが本来の業務ではない職員だけに、
自分に気を遣ってくれていることが、
はっきりと患者さんに伝わるからです。
■さて、フロアマネージャーやコンシェルジュを配置することによる、
もっと大きな弊害があります。
それは、
多くの場合、その他の職員が、
「フロアでのサービスは、フロアマネージャーやコンシェルジュの仕事。
そのためにいるのだから」
と認識してしまうことです。
「フロアマネージャーやコンシェルジュを置いてもらったのは、
わたしたちが、業務に専念できるようにするため。
なので、業務に専念させていただきます」
となってしまう例を、あちこちで目にします。
それは、職員の、
「手が空いているにも関わらず、目の前の患者さんに手を貸さない」
という態度となって現れることがあります。
または、
「廊下に落ちている拾えるはずのゴミを拾わない」
ということもあります。
さらには、
話しかけられる職員が見当たらないために、
患者さんがカウンター越しに質問しようとしても、
受付カウンターの中の職員が、
下ばかりを見ていて、顔を上げようともしない、
ということもあります。
「フロアマネージャーは責任を持って患者対応をしてほしい」
とでも思っているのかもしれません。
職員が、
「患者さんへのサービスは、わたしの業務ではない」
と思っていれば、
それは患者さんに如実に伝わります。
そんな職員の口からは、
「他にも何かお気がかりなことはありますか?
なんでもおっしゃってくださいね」
といったあたたかい言葉が、決して出ないからです。
■さて、ここからが組織運営をする上で、注意しなければならない本題です。
フロアマネージャーやコンシェルジュに限らず、
「あなたがこの担当だ」
とカテゴライズする場合、
それは、同時に、
「その他の人は、この担当ではない」
というメッセージを発してしまうことになる、ということです。
たとえば、
「接遇委員会」
があることで、
それ以外のスタッフは、
「接遇についてあれこれ考えるのは委員会の仕事。
自分から企画を提案する必要はない」
と考えていることが多いのではないでしょうか?
また、(このところお伝えしていることですが)
「働き方改革」
といえば、
「経営者・上層部・人事担当者」
と、経営者・上層部・人事担当者ご自身が考えているということはないでしょうか?
とすれば、まして、
その他の職員が、自分ごとと考えてはいないでしょう。
「人事労務については、私たちが口出しすることではない。
決まったことが降りてくるだろう」
と完全な他人事になっているのではないでしょうか?
しかし、
働き方改革によって、勤務時間が縮減されれば、
その中で、医療や看護の質を維持・向上する工夫が必要となり、
それは現場職員をおいてほかに、
その工夫をできる人はいません。
そう考えれば、実は、現場職員にとっては、
働き方改革は他人事ではないのです。
では、
担当者、委員会、フロアマネージャー、コンシェルジュなどを置くとしても、
それ以外の職員に当事者意識を持ってもらうためには、
どうするか?
■まず第一に、
「担当者」「委員会」といった
カテゴライズをすることが必要なフェーズはあったとしても、
つねに、
「本当は、みんなが担当者なのだ。
いまは過渡期的に、担当者が足場を作っているが、
早くみんなで参加してもらいたい」
と、
ゴール像を明確に自覚し、
全体にもアナウンスすることです。
それがなければ、
その他の職員は
「お任せしてありますので」
と考えてしまい、
当事者意識を持つことはないので、
担当者は永遠に、お膳立て担当をし続けなければならないのです。
■もう一つ、
「担当者」「委員会」を
その他の職員がいつでも参加できるようにオープンにすることです。
関心があれば聴講でき、
さらに関心があれば担当者や委員会に加わることができる、
というルールです。
「志望すれば関与することができる」
という組織になることで、職員が
「外野から文句を言うだけという態度を許さない」
組織文化にすることができるのです。
関心があってやりたい人がやる、というのが、
最もモチベーションが高くなり、
生産的になるでしょう。
なお、もちろん、
クローズで話さなければならないこともありますから、
「原則としてオープン。例外的にクローズド」
としておけば良いでしょう。
■ついでに言えば、
「担当者」「委員会」の名称も変えた方が良いことが多いでしょう。
接遇委員会ではなく、
たとえば、
接遇振興委員会などにした方がよいでしょう。
あくまで
「接遇を実践するのはみなさんです。
わたしたちは、それを支援する委員会です」
と、名称を見ただけでわかるのが良いでしょう。
名称がそのまま、
「本当の当事者はみなさんなのだ」
というメッセージとなります。