■「若手は難しい」「ベテランは変わりにくい」「中堅は難しい」と
手を焼いているという話がよくあります。
ほかに、中途採用・生え抜き、男性・女性、未婚・既婚・子持ちなどなど、
さまざまな条件によって人は異なります。
では、組織マネジメントをするには、基本的にどうすれば良いでしょうか?
- 年齢別に対応を分ける
- 勤務年数別に対応を分ける
- 職務等級別に対応を分ける
- 性格や性質別に対応を分ける
- 多く分類を組み合わせて百人百様の対応をする
- 対応を分類しない
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■今回は、モチベーションを高めるにはどうしたら良いか?
というテーマです。
組織づくりやスタッフ育成の話になると、
よく、
「若手はどうしたら?」
「中堅は?」
「ベテランは?」
と聞かれます。
対象に応じた対応をしたいと思うのもわかります。
しかし、実は、
カテゴライズするほど、
実践が難しくなるので、
効果的な取組からは遠ざかることを知っておいた方が良いでしょう。
また、そもそも、
相手の性質にこちらが合わせてあげるほど、
そこまで過保護にする必要があるのでしょうか?
■しかし、世の中には、
「相手をタイプ別にカテゴライズして、
タイプに応じた対応をする方法を学びましょう」
という理論やコンサルタントが存在します。
たしかに、身近なところでは
「あの人はB型だから・・・」
という血液型分類を参考している人も少なくありません。
しかし、血液型のような根拠のない迷信ではなく、
研究に基づいたカテゴライズもあり、
研修やコンサルティングとして販売されています。
たとえば、
- 交流分析
- ハーマンモデル
- NLPのVAK分析
などが代表的でしょう。
交流分析では、
人間には、
Parent、Adult、Childという3つの自我があり、
その組み合わせによってタイプが大別されるので、
そのタイプに応じて
対応方法を変えれば、
良いコミュニケーションが可能になると言います。
ハーマンモデルでは、
理性人、堅実人、感覚人、冒険人の4つのタイプに
大別されるので、
そのタイプに応じて活動の場を与えれば、
より良く活躍することが可能になると言います。
NLPのVAK分析では、
人間は、
視覚の影響を大きく受けるVタイプ、
聴覚の影響を大きく受けるAタイプ、
体感の影響を大きく受けるKタイプに分けられ、
そのタイプに合わせたコミュニケーションをとれば、
相手が受容しやすくなるので、
意思疎通が円滑になると言います。
みなさんの中にも、
「たしかに、そんな勉強したかも」
という方があるでしょうか?
しかし、そんなみなさんにお尋ねしますが、
ご自身が、どのタイプかを
覚えていれば上等ではないでしょうか?
つまり、みなさんが
「あの人とはうまくやりたい」
と想定していた人が、どのタイプだったか?
そして、そのタイプの人には、
どんな対応をすれば良いのか?
さらには、その対応の仕方をマスターして
いまもそれを実践しているのか?
・・・と問われて、すべてYESと答えることができる人は
ほぼ、いなかったのではないでしょうか?
もっとも身近な血液型でさえ、
上司や部下や同僚が何型だったか、
それほど覚えてはいないことでしょう。
まして、その相手に応じた
コミュニケーションの使い分けをマスターできて、
常に現場で実践できている人など、ほぼいないでしょう。
要するに、
「人をカテゴライズして、
そのカテゴリーに応じた対処法を学ぶ」
研修やコンサルティングには、
占いのようで楽しいので、
タイプ診断のその場では楽しく盛り上がるのですが、
その割には、
現場人間関係を良くする実効性が
それほど無いということです。
にもかかわらず、
なぜ、そんな研修が蔓延するのでしょうか?
それは、
参加者が「楽しかった」と感じ、
参加者からの評判が良ければ、
研修担当者としては、
非難を受けずに済むからです。
そこで学んだことを
現場で実践できているかどうか、
効果的かどうかは
別として、
「面白そう」
「なんとなく効き目がありそう」
占いと同じレベルで、
「やってみたい」
と思う人がいるため、
そこに漬け込む研修会社やコンサルタント会社があるからです。
■しかし、目を醒さなければなりません。
というのも、
そもそも、
「カテゴライズするということは、
本質的ではないアプローチをしていると言うこと」
だからです。
人間にとって最も本質的問題とは、
「死とは何か?」
「生きる意味とは何か?」
でしょう。
この問題から逃れられる人はいませんから、
人類全員に関わることです。
だから、この問題は、
誰に対しても、深く刺さります。
一方、たとえば私の住まいの
「東京都北区の人について」
「田端新町に住んでいる人について」
といったカテゴライズをすれば、
その投げかけは、
該当しない人々(この記事を読んでいるみなさんの大多数)にとっては、
どうでも良いことで、
深く刺さることもないでしょう。
もし、いま田端新町に住んでいて深く刺さった!という人も、
いずれは引っ越してしまい、
刺さらない人になってしまう、
いまだけのテーマなのです。
ということは、
対象者も今だけの話です。
そんな風に、カテゴライズして
それぞれのカテゴリーに合わせた対応をするのは、
みなさん自身がたいへんなのではないでしょうか。
交流分析も、
ハーマンモデルも、
VAK分析も、
それぞれの科学者の研究によって生まれた
カテゴライズです。
もし効果的だと思うならば、
3つとも併用すれば
こんなに精度が高まることはありません。
そこで、
「あの部下は、
交流分析の結果、NPタイプで、
かつ、ハーマンモデルでいうD冒険人タイプで、
かつ、NLPのVAK分析によればV視覚タイプだ」
と分析して、
それに合わせた対応をするのでしょうか?
同じく、
「別の部下は、FCタイプで、
かつ、A理性人タイプで、
かつ、K体感タイプだ」
と分析して対応できるでしょうか?
さらには、その二人が参加している会議で、
二人に響くように話したり、
二人が折り合うようにとりなしたり、
といったことを、
現実にするのは至難の業でしょう。
「コミュニケーションを良くする効果的な素晴らしいで方法すよ!」
と売り込んできた研修会社やコンサルタント会社が、
そこまで言うならば、
これらの性格分類をマスターして、
すでに社員同士が、相手に合わせたコミュニケーションをしている
とでも言うのでしょうか?
■こうした分析によるカテゴライズだけでなく、
もし、もっと精度を上げたければ、
- バス通勤だから
- 巨人のファンだから
- 次男だから
- 経済学部出身だから
- 納豆好きだから
- クラシックが好きだから
・・・などなど、
挙げたらキリがありません。
どこまで相手に合わせるのか?
それは、どこまで過保護なのか?
ということでもあります。
そうした人の表層的な性質に合わせるほど、
響くコミュニケーションにはなりません。
■では、どうするか?
相手がどうあれ、
本質にアプローチすれば良いのです。
たとえば、
「働く意味」。
「カネのために時間を切り売りする仕事で良いのか?」
という投げかけです。
その前提で、
「もっと頑張ろう」
「もっとできることはないか?」
と意欲的になれるのでしょうか?
この問いは万人共通でしょう。
そして、同じ働くならば、
「この仕事お金じゃない」
「この職場理屈じゃない」
と思えた方が良い、ということも万人共通でしょう。
そして、
そうなるためには、
勤務先が何かを与えてくれるわけではありません。
スタッフ自身が変えなければなりません。
「では、あなただったら、どうする?」
この問いかけもまた、
若手も中堅も、一般職員も管理職もない、
万人共通です。
なので、
冒頭のクイズについては、
[1]の、「年齢別に対応を分ける」
[2]の、「勤務年数別に対応を分ける」
[3]の、「職務等級別に対応を分ける」
[4]の、「性格や性質別に対応を分ける」
[5]の、「多く分類を組み合わせて百人百様の対応をする」
・・・は、いずれも
相手に合わせてあげようと過保護になるあまり、
カテゴライズの迷宮に遭難してしまうので、
好ましくない、ということになります。
そして、モチベーションを高めるためには、
まず基本的に
[6]の「対応を分類しない」
ことを原則にした方が良いということです。
なお、決して、
[1]〜[5]が不要というわけではありません。
まず、[6]を基本とし、モチベーションが上がってから、
さらに響くようにするために、
[1]〜[5]のように個別具体的な事情を考慮して
相談すれば、より効果的になる、
ということをお伝えしておきます。
■このように、スタッフをカテゴライズして、
千差万別に対応を講じようとするほど、
それは、
相手にとって枝葉末節へのアプローチとなり、
過保護な組織となってしまうのです。
反対に、
すべての人に共通する、万人共通の対応を講じるほど、
本質的で深いアプローチとなり、
相手の心に響きます。
カテゴライズして
面白おかしく教えて、
知識が増えたような気がして終わる研修で、
研修会社を喜ばせる必要はありません。
「どうしたら若手にも伝わるのか?」
「どうすれば中堅スタッフにわかってもらえるのか?」
「ベテラン職員を変えるにはどうしたらいいのか?」
「既婚で、勤続が3年以内で、大学病院での経験が長く、趣味は少なく、
社交的なスタッフには、どうすれば良いか?」
というような過保護な発想で、
カテゴライズの迷宮に入って遭難するよりも、
「人は、どうすれば動くのか?」
「人は、どんな時に心が明るく元気になるのか」
「人がもっと頑張ろうと心から思える条件は何か?」
といった本質的で、
人間の価値観の根幹に迫る切り口で、
スタッフに働きかけることをお勧めします。