■先日、
管理職には、「価値基準設定能力」が必要
と、書きました。
「何をどこまでやれば良いのか?」
「何をどこまでやったのか?」
を釈明するためには、ものさしを持たなければなりません。
その「ものさし設定能力」がなければ、
頑張っていることを釈明できない、という意味です。
しかし、この価値基準設定能力は、
実は、経営者・上層部にもまた必要です。
というのも、
管理職がものさしを挙げてこなかったとしても、
経営者・上層部にはやはり、
「なにを、どこまでやって欲しい」
ということを毅然と示せる力がなければいけないからです。
■そもそも、経営者・上層部が何を期待しているのか、
現場に伝わっていないことが多いのが実情であることは、
みなさんもご存知でしょう。
「いや、理念をきちんとつくって、
ホームページや院内に掲示しているじゃないか」
と思うでしょうか?
しかし、
その理念には
「何を」
しか書かれていないことが多く、
「どこまで」
については示されていないのではないでしょうか?ない。
しかも、
「何を」
についても、
「具体的には何がそれに該当するのか?」
を明らかにしている組織は稀でしょう。
たしかに、経営者・上層部から
「どんな言動を求めているのか?」
の具体的な内容を例示してしまうと、現場は
「それをすれば良いのか」
「それをしなければならない」
と受け止めてしまうので、
経営者・上層部から積極的に具体例を示すことは好ましくありません。
したがって、
現場から事例を挙げて、経営者・上層部が、
求めていた言動に該当したものを、
特に賞賛してゆくことが良いでしょう。
この方法のもう一つの長所は、
同じ理念のままでも、
状況とともにそのクオリティを向上してゆくことができるということです。
つまり、この方法であれば、
去年は素晴らしいと賞賛されていたことが、
今年には
「うちの病院では」しょっちゅう行なわれている」
「できて当り前」
となり、
さらに次のステージへと
賞賛の対象をシフトしてゆくことによって、進化してゆくことが可能となるからです。
しかもトップダウンではなく、現場の力で。
ただし、多くの組織では、
現場から、大小様々な事例をいちいち挙げる仕組みがないために、それが進まず、
「理念が浸透していない」
という声が多くあがっているというもったいない状況です。
そんなわけで、
「何を」
が充分に伝わっていないことも珍しくないのが現実であることは、みなさんもご存知の通りでしょう。
■さらに次には、
それを
「どこまで求められているのか」
が、明示されていなければなりませんが、これも明らかにされていたためしがありません。
なにごとも、
「何をもって充分とするのか?」
が分からなければ、現場は
「業務に費やしたい時間と労力の余力を、どこまで、理念の実現に向ければ良いのか」
分かりません。
「理念は重要」
と理解してくれている職員ほど、
大きな負荷がかかっても頑張って取り組んでくれることと思いますが、
それなのに経営者・上層部から
「不充分だ。もっと実践できるはずだ」
と言われれば、モチベーションが下がるのは必然です。
なにごとも、
「どこまで」
が示されていないと、
「充分やっているはずなのに、どこまでやれば良いのですか?」
と職員が不満を抱くことになってしまうのです。
元来、経営者・上層部としては、
理念に掲げるほど重要なことなのですから、
「なんとしてもやってもらいたい。現状では不充分だから」
と譲れないことでしょう。
ならば、現場にも、
「ここまではやってもらわなければ、うちの病院ではない」
と、実践するよう、毅然として求めなければなりません。
そのため、経営者・上層部が
「ここまでは」
を明示できなければ、現場との摩擦が大きくなるだけ、となってしまうのです。
したがって、
「何をもって充分とするか」
経営者が明示しなければ、実現することはない、というわけです。
そもそも、
「充分の基準」
は人それぞれだからです。
業務に全力を注いでゆきたいと思う現場職員は、
業務以外のことについて、
「求められていないレベルにまで向上しよう」
とは思わないものです。
「その余力があれば、業務を完遂することに余力を注ぎたい。
責任をもって業務を完遂したい」
と思うのはプロフェッショナルとしての意識の現れでもあるでしょう。
あながち責めることはできません。
そんな多忙な職員がそれでも気持ちよく実践してくれるようになるためには、
「どこまで」
を明示することが必要になるのです。
■つまり、
「なにをもってできているとするか」
のイメージです。
「地域から愛される」
という理念ならば、
「患者さんや連携先から、どんな言葉が、どれくらいの頻度で聞かれるか」
というものさしにすることもできるでしょう。
「あたたかい病院」
という理念ならば、
「患者さんやご家族から、どんな声が、どれくらいの頻度で聞かれるか」
というものさしにすることができるでしょう。
「慈愛の心をもって」
といった理念ならば、
「医療行為を超えた対応を、どれくらいの頻度で実践しているか」
というものさしにしてもよいでしょう。
「安心安全な医療を提供します」
という理念ならば、
「このように安全を向上する取組と、このように安心を感じているという患者さんの声を、どれくらいの頻度で実現するか」
というものさしにすることも良いでしょう。
■みなさんの現場では、
「なにを」
の具体的な言動が明示できるように、
現場から事例が上がり、経営者・上層部が、
それに適った事例を賞賛する仕組みがあるでしょうか?
また、
「どれだけ」
実践すれば良いのか、が伝わるように、
そのものさしを、経営者・上層部が持っているでしょうか?
なにごとも、
「何を、どれだけ」
を明示できなければ、相手と摩擦を生むだけです。
まして、理念が
「かならず実現して欲しいこと」
であるならば、
多忙な現場職員が、気持ちを向けて
経営者・上層部の目指すような言動を実現してくれなければならず、
そのためには、
経営者・上層部が
「何を、どれだけ」
を明示していなければ、
大切な大切な理念が、たんなる画餅に帰してしまいます。
ひところ、
「ビジョンが大事」
「理念経営が素晴らしい」
と組織の命のようにあれだけ大切だと騒がれた「理念」ですが、
具体的な実践に繋がらなければ、意味がありません。
経営者・上層部の方々は、
「何を、どれだけ」
を言語化して明示する「価値基準設定能力」が大切です。