■「どうすれば、職員のモチベーションを上げることができるのか?」
と悩む経営者・管理職は少なくないでしょう。
たしかに、
高いモチベーションを持って
仕事に臨んでくれれば、業務が円滑に進むでしょう。
また職員同士も協力して、組織の生産性も上がることでしょう。
そこで、
「働くモチベーションはどうすれば上がるのか?」
と訊かれることがあります。
そのため、
古典組織論の中には、
マクレガーのX理論、Y理論のように、
「人間は生来、自発的に働きたい生き物なのか?
それとも、生まれつき怠け者なのが人間なのか?」
と議論されたこともあったようです。
■しかし、考えてみてください。
「日本人なら、生来、お米を炊くモチベーションがあるか?」
と訊かれたら、どういう答えになるでしょうか?
白飯が食べたい時には、
「お米を炊きたい」
と思うでしょうし、
今日はパスタがいい、という時には、
「お米を炊きたくない」
と思うでしょう。
つまり、
人間は生来、
お米を炊きたいわけでも
お米を炊きたくないわけでもありません。
時として、
白飯を食べたいと思って
米を研ぎ、加熱する意欲がある状態のことを、
「お米を炊くモチベーションがある」
と呼ぶだけのことだということです。
「なぜ、常に米を炊くモチベーションがないのだ?」
と訊かれれば、本人は
「米だけが食べ物じゃない。
穀類が要らない日さえある。
そもそも、食事だけが人生じゃない。
食事の時間を惜しんでゲームをしたい時だってある。
米を炊きたいという関心は、
人生のうちで、ほんの1%にも満たない事柄なのだ」
と答えるのではないでしょうか。
それと同じで、
人間は生来、
働きたいわけでも
働きたくないわけでもありません。
時として、
さまざまな事情や関心があった際、
勤務先に赴いて担当業務をする意欲がある状態のことを、
経営者・管理職が、勝手に
「働くモチベーションがある」
と呼んでいるだけのことなのです。
「なぜ、働くモチベーションがないのだ?」
と訊かれれば、
職員は、
「働くことだけが使命じゃない。
成長しなくても責任を負わなくても、
いわれたことだけをこなして済ませたい日さえある。
そもそも、働くことだけが人生じゃない。
できることなら半年間、仕事をせずに過ごしたい時だってある。
働きたいという関心は、
人生のうちで、ほんの1%にも満たない事柄なのだ」
と答えるかもしれません。
実際、みなさん自身も、
仕事に拘束される時間が長いだけで、
働いている時も、そうでない時も、
仕事以外のことで人生がいっぱいになっていることも
多々あるのではないでしょうか。
夫婦間のこと、
趣味のこと、
子育てのこと、
お金のこと、
親のこと、
健康のこと、
・・・・・・あげたらきりがないでしょう。
そして、
働くことよりも、
こうした働くこと以外のことの方が、
重要な関心事である、ということも少なくないのではないでしょうか。
そんな、働くこと以外に多くのテーマを抱えている人たちに、
「働くモチベーションが、あるのか?」
と聞いたところで、
「働く気があるときはある、
働く気がないときはない」
としか答えが返ってこないでしょう。
人間には、心の中には、
関心事が映るディスプレイがあり、
その中に、さまざまなことが飛び込んできます。
何週間も、画面いっぱいに
好きな人との恋愛だけが映っていることもあるでしょう。
かき消してもかき消しても
自分を傷つけた人への恨みが画面に割り込んでくることもあるでしょう。
勤務中くらいは、
仕事が映っているのですが、
パソコンの画面のように、
画面の半分はウィンドウが開き、
熱を出して家で休んでいる子供のことが映っている、
ということもあるでしょう。
「働くモチベーション」
というものが存在するのではなく、
この「心の中の関心事が映るディスプレイ」に
仕事のことが映りこんできた時に、
その部下を見て、
経営者や管理職が、
「働くモチベーションがある」
と呼んでいるだけなのです。
■そもそも、
「働くモチベーションがあるのか、ないのか?」
という問いは、
「働くモチベーションを持っていてほしい」
という経営者・管理職の願望から生まれた
身勝手な幻想だということです。
「わたしのことを好きなのか、好きではないのか?」
と問われても、それは、
「わたしのことを好きであってほしい」
と勝手に願っている人だけが投げかける自分本位な問いでしかないのです。
■その身勝手な幻想が高じて、
古典組織論では、
「成長できると嬉しいのだ」
「評価されると嬉しいのだ」
「報酬が増えると嬉しいのだ」
と、都合よく説明し、
そうした動機で意欲を高めることを、
「働くモチベーション」
と呼んでいるだけです。
■では、現に働いている人たちは、
どうして働いているのでしょうか?
お金、家族のため、世間体、プライド、やりがい、誇り、その他、いろいろあるでしょう。
なので、コンサルタントに勧められて
職員満足度調査を実施したりすると、
本当のモチベーションとは関係のない、
どうでもいいことまで聞くことになってしまうので、
注意された方が良いでしょう。
たとえば、
「待遇が不満」
という結果が出れば、
給与や賞与などを見直さなければなりません。
「施設設備が不満」
という結果が出れば、
建物や内装をリニューアルすることを考えなければなりません。
このように
「働くモチベーションは、なんだ?」
という前提に立つと、
「職員のさまざまな要望に応えてみるしかない」
というおかしな対策にしかたどり着きません。
■その逆で、
「人は、どんな時にモチベーションが上がるのか?」
から考えることが必要です。
そして、
「そういう瞬間が、仕事の中で生まれるにはどうしたら良いのか?」
を考えることが必要なのです。
「いつも、趣味や人間関係のことなので画面がいっぱいの
心の中の関心事が映るディスプレイに、
どうすれば、
仕事のことが割りこめるのか?」
と考えていても、実現することはありません。
「どんな場面だったら、
ディスプレイに映るのか?
そんな場面のある仕事にすればよい」
と切り替えた方が良いでしょう。
■むしろ、
経営者・管理職であるみなさんは、
どういう動機で働く人を増やしたいのでしょうか?
待遇や施設設備で満足度が上がる人を増やしたいのでしょうか?
もしその逆で、
やりがいと誇りを大事にする職員を増やしたいならば、
「やりがいと誇りを感じられる組織」
を創れば良いということになります。
待遇や施設設備といったその他のことは、
その後で、まだ必要だったら、その時に手を着ければ良いことです。
やりがいや誇りを感じられる組織とは、
「感謝されて嬉しい」
「役に立てて嬉しい」
「尊重されて嬉しい」
と感じることができる職場です。
周囲からの、
「敬意」
「感謝」
「承認」
がないところに、
やりがいや誇りが生まれることはないからです。
そして、
敬意、感謝、承認に満ちた職場では、
カネやモノではなく、
心に響く瞬間がもたらされるので、
職員は、
「この仕事には理屈じゃない魅力がある」
「この職場にはお金では買えない瞬間がある」
という、強烈なモチベーションを持つことができるのです。
■もしかしたら、
多くの経営者・管理職が
「仕事は辛くて大変なもの」
と認識しているかもしれません。
経営者・管理職が、
「働くこと」の、くたびれた、パッとしない姿を見せても、
職員の方々の
心の関心事のカメラがフォーカスすることがないのは、
当然でしょう。
逆に、
経営者・管理職の立場ならば、
まずご自身が、
「仕事には、理屈じゃない魅力がある。
職場には、お金で買えない瞬間がある」
と認識することです。
そして、経営者・管理職が、
「働くこと」の、ドラマチックでキラキラした姿を見せれば、
職員の方々の
心の関心事のカメラは思わず吸い寄せられ、
最大にズームアップしないではいられなくなるのです。