本当のブランディングとは、宣伝することではない

本当のブランディングとは、宣伝することではない

■医療機関のブランディングといえば、
多くの書籍やコンサルタントからは、
・看板
・診察券
・ホームページ
・ロゴマーク
…などなどの患者さんを引きつけるための施策が大事だと説かれています。

いわゆる、
「アウター・ブランディング」
と呼ばれているものです。

一方、組織内部に対して、
医療機関の個性を発信してゆくのを、
「インナー・ブランディング」
と呼ばれています。

いわば、医療機関の価値について、
職員の理解をとりつける作業と言っても良いかもしれません。

■そこで、質問です。

アウター・ブランディングと、
インナー・ブランディングとでは、
どちらが重要でしょうか?

世間では、
ブランディングといえば、
テレビCMや、イメージキャラクターなどをイメージすることが多く、
「いかにマーケットに訴えるか?」
のことだという印象を持たれているでしょう。

マクドナルドは、
休日の家族団欒を過ごす場所の象徴のような
イメージCMを流します。

コカコーラは、
10代から20代の若者たちの、
青春の一場面には必ずある飲み物という
イメージCMです。

こうした
「アウター・ブランディングこそが、ブランディングだ」
と言う先入観をもって、
医療機関に対して、ブランディングを提案するコンサルタントも
少なくありません。

というのも、
ロゴのデザイン
看板製作、
ホームページ制作、
その他の製作物をつくることは、
売上になりやすいからです。

最近では、
院長先生のインタビューのほか、
わざわざドローンを飛ばして病院全景を撮影して、
動画をホームページに乗せることを提案して、
何百万円も請求するコンサルタントもあります。

しかし、もし病院の価値を伝えたいなら、
本当にするべきことは、
そんなことでしょうか?

■多くの方々が、当り前のように言うのが、
「医療機関はテレビもチラシも使わない。

また、心から安心したい患者さんたちが
最もあてにするのは、『口コミ』だ」
です。

みなさんもそれはご存知でしょう。

また実際、ご自身が困った時には、
「どこか、信頼できるところはないか?」
と、まずは知人に聞くことでしょう。

ではどうすればよいか?

強力な口コミは、来院者の口からしか発せられません。

つまり、日々の来院者お一人お一人に、
しっかりと向き合って、
「ここにきてよかった」
「またかかるなら、この病院だ」
「相談するなら、この職員だ」
と思って帰ってもらうこと、に尽きます。

それができるのは、
お金でも、
院長先生だけでも、
施設設備でもなく、
そこにはたらく職員の方々をおいて他にありません。

患者さんが来訪されてから退出されるまでの間の、
職員の方々の対応、
これだけです。

これがなければ、
どんなにかわいいロゴをデザインし、
素敵な診察券を配り、
目立つ看板を立て、
ホームページに良いことを書いても、
無駄になります。

次々と来訪した患者さんが、
帰って行っては、
「あそこは勧めないよ」
と周囲に話していては、
選ばれる医療機関になることはないのです。

つまり、
重要なのは、
アウター・ブランディングではなく、
インナー・ブランディングだということです。

■そして、職員が、
「うちはここが素晴らしい」
「わたしたちの気持ちはどこにも負けない」
という自信と誇りをもっていれば、
まずは、職員自身の家族や友人・知人に、
自分の勤務する医療機関を、
胸を張って勧めるようになります。

親しい人に勧められないものを、
誰かに勧めて買ってもらうことなどできませんから、
言い換えれば、
職員が、親しい人の勧められるようになってこそ、
初めて、
これまで会ったこともなかった人たちにも
胸を張って勧めることができるようになるでしょう。

そんな思いで対応された患者さんは、
「ここにきてよかった」
「またかかるなら、この病院だ」
「相談するなら、この職員だ」
と心から思えることでしょう。

そして、自分の親しい人たちにも
「かかるなら、あの病院がいいよ」
と勧めてくれ、良い口コミが広まってゆくでしょう。

そして、自分の勤務先に誇りを持った職員は、
「うちが選ばれないのは、もったいない。
もっとうちの良さを広めるべきだ」
と考えるので、
その結果、その思いを込めたアウター・ブランディングを考えるようになります。

そうして作られた対外的なメッセージを見て
来院された方々は、
勤務する職員のポリシーが体現されている職員の方々の対応に、
「看板に偽りなしだ。来てよかった」
と感じることができるでしょう。

要するに、
インナー・ブランディングを徹底すれば、
必然的に、
アウター・ブランディングもついてくる、ということです。

■逆に、
まずインナー・ブランディングを探求せずに、
アウター・ブランディングだけを整えようとしても、
来院者が
「来てみたら、そんな対応じゃなかった」
と感じて帰れば、
やればやるほど、悪い口コミを増やすことにしかならないのです。

もしみなさんが、
「選ばれる医療機関になりたい」
と相談した時に、
「では、内装を」
「では、デジタルサイネージを」
「では、熱帯魚を」
「観葉植物を」
「ウォーターサーバーを」
などなどと、アウター・ブランディングの話から始めるコンサルタントに
振り回されてはなりません。

■他業界ですが、
V字回復を果たしたことで大きな話題になった
日本航空にしても、
アサヒビールにしても、
最初に変えたのは、「宣伝」(アウター・ブランディング)
ではありません。

もちろん、新商品を出すなどの
「奇策」
でもありません。

職員が勤務先に誇りを持っていなければ、
どんな商品を持たせても売ってこないからです。

では、何をしたのか?

自分たちの商品の良さを
社員全員が見つめ直し、
「わたしたちは素晴らしいものを提供しているのだ」
と誇りを持った時、
職員全員参加の壮大なアウター・ブランディングが、
指示や命令をしなくても、
現場から自然発生的に巻き起こる。

その、平常時でも非常時でも変わらない基本を
ただひたすら、
徹底して実践したのです。