注意! クレドづくり、社歌づくりで組織体質は醸成できない

注意! クレドづくり、社歌づくりで組織体質は醸成できない

■ひところ、
「クレドづくりコンサルタント」
が登場したのをご存知でしょうか?

20年ほど前、
リッツ・カールトンがホスピタリティで名を轟かせ、
「なぜ、自律的な対応ができるのか?」
と多くの人たちがその秘密を知りたがりました。

そして、紹介されていたのが、
「クレド」
という理念カードでした。

基本理念と行動基準の間のような、
あるいは、その両方を包含したような
約20ヶ条からなる思考と行動の指針です。

リッツ・カールトンを利用した際に、
今でもスタッフに依頼すればもらえることと思います。

そして世間では、
「このクレドが、自律的な組織づくりの秘密だ」
と語られたのです。

そこで登場したのが、
「クレドづくりコンサルタント」
だったのです。

「クレドをつくれば、素晴らしい組織になりますよ」
と売り込んで回ったのです。

コンサルティングは、

  1. まずクレド編纂チームを編成する
  2. チームが、各部署に依頼して、全スタッフから、大事にしている思いなどの価値観を提出してもらう。
  3. 毎月チームが集まって、それらの文章や単語を組み合わせて、約20ヶ条にまとめる。
  4. プロセスにおいて、適宜、各部署のスタッフの意見をとり入れる。
  5. 半年またはそれ以上期間の月例会議を経て、チームがクレドを完成
  6. 組織全体にお披露目式を開催
  7. 「みんなで作ったクレドだから実現しよう」と締めくくる。

・・・といったものです。

ここでお分かりでしょう。

その後、そのクレドが現場に浸透するかというと、
まもなく風化してゆくのです。

クレドを作ったはいいけれど、
肝心の
「組織に価値観を浸透させる方法」
「スタッフの日常の思考や行動に反映する方法」
がわからなければ、浸透することはないのです。

■そこで、こういう声が上がります。
「そういえば、クレドを作らなくても、
同じような組織の基本理念がすでにあった」
と。

そして、
それを組織に浸透させることができなかったのであれば、
クレドを作っても同じことが起きるだけなのです。

重要なのは、大事な価値観を
みんなの価値観にし、
日常の思考や行動に浸透させてゆく方法

つまり、一言で言えば、
「組織体質を醸成する方法」
だったのです。

実際、わたし自身も、クレドづくりコンサルティングをしているという知人から
「実は、クレドっていうのは、作らせるのはどうにでもできます。
問題は、つくった後がなんですよ。
ただ、そのやり方がわからない」
と言われたことがあります。

■自律進化組織研究所でも、
最初、理念が明確になっていない場合には、
理念の再策定から始めることとなり、
その手順は、クレドづくりと同じです。

ただし、自律進化組織研究所が主題としているのは、
その明確になった理念なりクレドなりを、
現場におけるスタッフの日常の思考や行動に浸透させるプログラムです。

組織体質を醸成するにあたり、
明確な方向性が必要だから基本理念の再策定をするだけで、
本当の取組は、そこからがスタートなのです。

クレドの完成がゴールというコンサルタントとは
その点で、目指すものがまったく異なります。

■ところで、
最近は、新たなクレドづくり商法が登場しています。

それは、
「社歌づくりコンサルティング」
です。

クレドづくりと同様に、
スタッフみんなから大事にしていることについて
言葉や文章を上げてもらい、
編集して歌にする、というものです。

歌に込められた美しいフレーズが
記憶に残ることは、
残らないよりは遥かに良いでしょう。

しかし、重要なのは、その価値観が、
日常の思考や行動に浸透するかどうか?ですが、
歌を歌っていれば浸透するということはないでしょう。

■日常に浸透するためには、
もっと双方向の対話が必要だからです。

「わたしは、こう考えた」
「それは近いと思う」
「ぼくは、やや違う理解だ」
といった日々のやり取りをする中で、

互いの価値観の輪郭が明確になり、
言語化することもできるようになり、
言語化できるようになって初めて、
自分の思考、自分の行動となって、表現できるようになるのです。

そうした双方向のコミュニケーションなしに、
いくらクレドや社歌だけを作っても
「具体的にはこれでいいのかな?」
の域を出なければ、浸透しないというわけです。

クレドづくり、社歌づくりのコンサルティングに
注意されることをお勧めします。

「本当に、これを作って、現場に思考や行動が浸透するのか?」
「うちにはすでに理念があるのに、浸透していないのだが?」
と、質問してみて、
コンサルタントが、
「浸透することができる」
と答えるならば、
そのプロセスをしっかりと確認した方が良いでしょう。