■患者サービス研究所が、
接遇向上に、
これまでとまったく違った視点を持ち込んだのは、
それまでの医療接遇に疑問を呈する声が、
現場の職員の方々の間からあまりにも多く上がっていたからです。
今日は、これまでの一般的な医療接遇向上策を
根底から
「見直そう」
という内容ですので、
お気に召さない方は、無視してください。
患者サービス研究所の私見です。
■古くは、1990年代に厚生労働省からも説かれた
「医療もサービス業」
という考えから始まったのが、医療現場における接遇でした。
当時はたしかに、
「接遇ってなんのこと?」
という職員もたくさんいました。
「医療従事者が患者さんに挨拶なんてしなければいけないの?」
と公言している人もいたのが実情です。
そこで、医療業界ではにわかに、
「接遇を学ばなければならない」
という機運が生まれました。
そこで、登場したのが、
企業向けに侵入職員研修やビジネスマナー研修を販売していた
いわゆる研修会社です。
わたしも新卒で入った証券会社では、
入社早々の合宿研修で、
元スチュワーデス(当時。いまはCAさんですね)の講師の方々から、
お辞儀や笑顔や、名刺の受け渡し、上座下座などを
教えてもらいました。
そして、研修会社は、
「接遇に取り組み始めたばかりの医療業界には、基礎を教えれば良いはずだ」
と考えたためか、
名前こそ「病院向け」「医療従事者コース」などと変えたものの、
企業向けの新人研修とほぼ同じような研修を持ち込んだのでした。
そのため、医療現場には、
「へー、これが接遇マナーですかー」
という職員の方々もあった一方、
「これって、医療現場では全然使えないー!」
という方々もありました。
しかし、他に選択肢がなかったために、
ほぼすべての医療機関が、
このビジネスマナー研修を受講したのでした。
■そこから、
「では、医療現場なら、どんな接遇がよいだろうか?」
と医療従事者の方々が研究することは、
物理的にも難しかったことでしょう。
かといって、接遇研修会社は、
医療現場を知らないので、
「これが正しい接遇です!
忙しい時こそ、笑顔を忘れずに!」
などと自信満々に教えてやまず、
ついに、医療現場にふさわしい接遇は、なかなか研究されなかったのです。
すると、どうなったでしょうか?
接遇委員会が編成され、
「接遇に注力しよう」
ということが当たり前になりました。
しかし、
「接遇ありき」
で始まったため、
「こんな病院になるためには、こんな接遇をすべき。
そのためには、こんな人に接遇委員に入って欲しい」
という取り組みをされた病院はごく少数でした。
多くは、
「誰か出して」
と言われて、その部署で
「面白そう」
と関心のある職員が志願すれば良い方ですが、
むしろ、
「あの子、挨拶もロクにできないから、接遇委員会にでも入れて叩きなおしてもらったらいいわ」
と、接遇委員会を、接遇矯正所か、接遇虎の穴のように思った部署長から、
最も接遇マインドのない職員が委員会へ送り込まれてくる、という悲劇も
多くの病院で見受けられました。
これは今でも時々聞きます。
さて、接遇委員会では、
元スチュワーデスの研修を受けた後は、
「どうする?」
ということになりました。
病院によっては、
「教わった通りにできているかと言えばできていない。
また研修会社に頼もう」
と、毎年、ビジネスマナー研修を受けていたところもあります。
医療業界は律儀なので、教わったことはきちんと習得しなければいけない、
という方もあり、
「なぜ、教わったことがきちんと徹底されないのか?」
「それは、各部署によって事情が異なるからだ」
となり、
各部署毎に、接遇マニュアルを作り出した病院もあります。
何ヶ月もかけて作ったマニュアルですが、
頻繁に紐解く時間もないので、キャビネの奥にしまわれてしまい、
新入職員が入った時にだけ、
そのコピーが渡されるものの、
渡す方も渡される方も、改めて読むことなどない、
という事態もめずらしくないはずです。
考えてみれば、研修で教わって浸透しないものが、
マニュアルという紙情報になることで浸透するはずはありません。
■マニュアルを作っても、浸透しないのだから、
「ちゃんと実践されるように、チェックしなければいけない」
という話が出るのも自然なことでしょう。
そこで、接遇自己チェックリストを作成して、
各部署に配り、
職員自身が、あるいは、同僚同士で、
何ができているか、できていないか、をチェックするように促す、という
ことも生まれました。
しかし、こういうことは、
接遇に関心の低い職員ほど、できていないものですが、
関心が低いので、自己チェックリストで採点しても、
そういう職員ほど、自己採点のスコアが高くなってしまう傾向があります。
自分のスタイルに問題を感じていないので、
スコアを低くつける理由がないのでしょう。
■自己チェックじゃダメだ!ということになり、
接遇委員が、各現場を巡回して、
チェックして回る、といった院内巡視をしたという病院もあります。
しかし、指摘できるのは、身だしなみなどの外観部分で、
立ち居振る舞いや話す様子、対応の仕方など形の残らないことについては
なかなか指摘できないものです。
すると、おのずと、院内巡視が
あたかも中学高校の風紀委員のような
職員にとって煙たがられる存在になってしまい、
お互いの関係がギクシャクしかかったというケースも多々ありました。
■やはり理念だ!という発想と、
「リッツ・カールトンホテルは、クレドを作って、最高のホ
スピタリティを実現している」という話から、
「うちもクレドを作ろう」
という病院もでてきました。
また、
「クレドを作ったら、素晴らしい組織になりますよ!リッツのように」
というクレドづくりコンサルタントも現れたのです。
プロジェクト・チームを立ち上げ、
全職員を巻き込んだり、毎月ミーティングを重ねて
出来上がったクレドを、
盛大なお披露目式で発表した後は、
毎日、全員で唱和したり、
カードに印刷してネームカードの中に入れて肌身離さず携行させたりしますが、
当然ですが、それでホスピタリティが向上することはありません。
考えてみれば、クレドなんか作らなくても、
「同じような理念が昔からあったよね」
という顛末です。
クレドも理念も、文言そのものではなく、
その文言をどのように浸透させるのか、
その方法こそが最も大事なのです。
■接遇のような緊急性が低いテーマであるにもかかわらず、
上層部や委員会が、あまり強力に現場に介入しようとすれば、
現場の空気を悪くしてしまう恐れがある、と気づくと、
「接遇標語を作りましょう!ぜひご応募を!」
あるいは
「接遇川柳で競いましょう」
などといったイベントで、遠巻きに接遇を呼びかけるなどの施策を
始めたところもあります。
しかし、これとても、
やる人はやるけれど、
関心のない職員には、そのポスターも目に入らない、という結果となります。
また、つい、上層部は
「優秀作品は表彰しよう。その方が、盛り上がるはずだ」
という発想になりがちです。
しかし、
優秀作品の作者という一握りだけが表彰されても、
一方、義務づけられてもいないのに応募した多くの職員には何もなければ、
どうなるでしょう。
応募したのに何もなかった大多数の職員が、もっとやる気を出すことはありません。
■ここまでいろいろ取り組んできてみると、
一生懸命関心を向けてやってきた職員の方こそ、
「ところで、これ、どこまでやるんですか?」
「一体、何を持って接遇が向上したと言えるのでしょうか?」
「まだやらなきゃいけないの?」
という、そもそもの疑念を抱かずにはいられなくなってしまいます。
一方、
全く関心がなく一生懸命やってこなかった職員もまた、
「まだやるんですか?」
「なにがどう問題なんでしょうか?」
と、そろそろ不満を言い出すようになってしまいます。
■実は、この数年、ちょうどこのように、
「いろいろやってきたけど、
一体、この接遇って、どこを目指してすすでいるの?
まだやらなきゃいけないの?」
と、多くの医療機関が気づきだしたところ、と言えるでしょう。
もう、二度目、三度目の
接遇研修会社のビジネスマナーを受ける必要はありません。
医療現場における、医療従事者や患者さんご家族の心理構造も知らない
接遇研修講師が教える接遇研修を
医療機関の大切なお金を支払って受ける必要はないのです。
知っておくことは価値がありますが、
いつでも実践できるように身体に叩き込んでおくほど、
医療現場では必要な対応ではないからです。
みなさんの現場でも、
「これからの医療接遇って、いったい何をどう高めて行けば良いのだろう?」
と接遇委員会の方々も言っているのではないでしょうか。
■患者サービス研究所では、
「本当に、医療現場で必要とされる接遇とは何か」
を明らかにしています。
そして、そのために何から始めれば良いのか、についても具体的にお伝えしています。
次回は、
医療接遇の本質がわかるたった一つの質問
をご紹介します。