■1970年代、
みなさんがまだ香港にいてブルース・リーだった頃、
“Don’t think! Feel!”
と、映画『燃えよ!ドラゴン』の中で、
仰っていたことを覚えていることでしょう。
今回は、
管理職とは、
「部下に考えさせようとするよりも、まず感じさせることだ!」
という話です。
■過去の私も含めて、
多くの管理職の方々が、
「部下には考えさせることが大切だ」
と思っている傾向があります。
そして、
「もっと考えなさい」
と指導していることでしょう。
もちろん、
「考えさせること」
も重要なのですが、
それは実は、二番目に大事なことだと考えられます。
では、もっとも重要なのは何か?
それは、
「感じさせること」
です。
というのも、
痛みを感じていない者は、
環境や自分の生活習慣を変えようとしないからです。
考えさせられて、
頭で考えて作り出したモチベーションには限界があります。
頭ではわかっても、
危機感を感じていない部下は、
自分の仕事や組織を変えようとしません。
考えさせた危機感は、
あっという間に薄らいでしまうからです。
それでも上司が
「考えなさない」
と言い続けて危機感を伝えようとすると、どうなるでしょうか?
痛くもないのに改善を強いられる部下は、
不満に思い、
改善しないばかりか、
上司のことを煙たく感じるために
関係性も悪くなってしまうのです。
■少々脱線しますが、
もしみなさんが、
この世の中で最も恐いジェットコースターを作って欲しいと依頼されたら、
どんなジェットコースターを作りますか?
カートがレール上を動き始め、最も高い位置に迫った時、
足元にボルトがコロコロと転がり、
はるか真下の地上に目をやると、
花束やお菓子がたくさん供えられているのが見える…。
最も恐いのは、
こんなジェットコースターではないか、とわたしは思うのです。
■もし、
建物が焼けて早く逃げ出さなければならないならば、
上司は、部下に
「いま燃えているから早く逃げ出さなければ、
酸素が不足して窒息してしまう。
なぜなら燃焼という現象は酸素濃度を下げてしまい、
人間の呼吸を阻害するからだ。
また火が迫ってきているので、
早くここから出なければならない。
なぜなら、家屋が燃焼すると、
屋外に出る逃げ道も塞がれてしまい、
窒息する前に、炎に囲まれて焼け死んでしまうからだ」
と、パワーポイントを用いて説明したり、
化学の教科書をもとにグループ・ディスカッションをさせて、
いま自分たちがいかに危険かを、
「考えさせる」
でしょうか?
もっとも確実に、迅速に、部下を動かすには、
窓を開けて、建物を囲んでいる猛火を目の当たりにさせたり、
ドアを開けて、廊下に充満する煙を見せたりすることでしょう。
そうすれば、部下は、一目瞭然で自分の危機を知り、
脱兎のごとく逃げるという行動に移るはずです。
そして、二度と説明をし直さなくても、
安全になる最後まで、上司が見ていようと見ていまいと、逃げ切ることでしょう。
■このように、
部下には、考えさせようとするのではなく、
感じさせるようにする方が、
はるかに効果的であり、
上司部下の関係性も良いものとなるのです。
一方、多くの管理職が、
部下に、まず考えさせようとしてしまうため、
伝えたいことが伝わらないばかりか、
上司部下の関係性も悪くしてしまっているのです。
「自分が伝えなければ」
とみずから責任を負ってしまう傾向は、
まさに
「負責病」
です。
我が国で管理職を
「管理職」と呼んでいる時点で、
みんながリーダーの役割を誤解することを助長しているのかもしれません。
管理職が、
「管理・指導・指示・命令・教育・コントロールしなければいけない」
とみずから介入する責任を負えば負うほど、
部下は鬱陶しく感じるだけで動かず、
上司部下の関係は悪くなります。
他人の意図でコントロールされることほど、人間のモチベーションを損なうことはないからです。
逆に、
窓やドアを開けて、猛煙や豪火を見せれば、
部下は一瞬で状況を理解できるので、
知らせてくださった上司に感謝するはずです。
■香港にいる頃、みなさんが弟子に、
“Don’t think! Feel!”
と仰っていたころを思い出し、
いま、管理職となった自分自身には
「部下に考えさせようとするよりも、まず感じさせよ!」
と、振り返ってみることを、お勧めします。
「どうやって説明して判らせようか」
という発想をやめて、
「猛煙や豪火はないか?」
探すことです。