負責病の事例(12) 「考えさせれば良いという発想」

負責病の事例(12) 「考えさせれば良いという発想」

■1970年代、

みなさんがまだ香港にいてブルース・リーだった頃、

“Don’t think! Feel!”

と、映画『燃えよ!ドラゴン』の中で、

仰っていたことを覚えていることでしょう。

 

今回は、

管理職とは、

「部下に考えさせようとするよりも、まず感じさせることだ!」

という話です。

 

■過去の私も含めて、

多くの管理職の方々が、

「部下には考えさせることが大切だ」

と思っている傾向があります。

 

そして、

「もっと考えなさい」

と指導していることでしょう。

 

もちろん、

「考えさせること」

も重要なのですが、

それは実は、二番目に大事なことだと考えられます。

 

では、もっとも重要なのは何か?

 

それは、

「感じさせること」

です。

 

というのも、

痛みを感じていない者は、

環境や自分の生活習慣を変えようとしないからです。

 

考えさせられて、

頭で考えて作り出したモチベーションには限界があります。

 

頭ではわかっても、

危機感を感じていない部下は、

自分の仕事や組織を変えようとしません。

 

考えさせた危機感は、

あっという間に薄らいでしまうからです。

 

それでも上司が

「考えなさない」

と言い続けて危機感を伝えようとすると、どうなるでしょうか?

 

痛くもないのに改善を強いられる部下は、

不満に思い、

改善しないばかりか、

上司のことを煙たく感じるために

関係性も悪くなってしまうのです。

 

■少々脱線しますが、

もしみなさんが、

この世の中で最も恐いジェットコースターを作って欲しいと依頼されたら、

どんなジェットコースターを作りますか?

 

カートがレール上を動き始め、最も高い位置に迫った時、

足元にボルトがコロコロと転がり、

はるか真下の地上に目をやると、

花束やお菓子がたくさん供えられているのが見える…。

 

最も恐いのは、

こんなジェットコースターではないか、とわたしは思うのです。

 

■もし、

建物が焼けて早く逃げ出さなければならないならば、

上司は、部下に

「いま燃えているから早く逃げ出さなければ、

酸素が不足して窒息してしまう。

なぜなら燃焼という現象は酸素濃度を下げてしまい、

人間の呼吸を阻害するからだ。

また火が迫ってきているので、

早くここから出なければならない。

なぜなら、家屋が燃焼すると、

屋外に出る逃げ道も塞がれてしまい、

窒息する前に、炎に囲まれて焼け死んでしまうからだ」

と、パワーポイントを用いて説明したり、

化学の教科書をもとにグループ・ディスカッションをさせて、

いま自分たちがいかに危険かを、

「考えさせる」

でしょうか?

 

もっとも確実に、迅速に、部下を動かすには、

窓を開けて、建物を囲んでいる猛火を目の当たりにさせたり、

ドアを開けて、廊下に充満する煙を見せたりすることでしょう。

 

そうすれば、部下は、一目瞭然で自分の危機を知り、

脱兎のごとく逃げるという行動に移るはずです。

 

そして、二度と説明をし直さなくても、

安全になる最後まで、上司が見ていようと見ていまいと、逃げ切ることでしょう。

 

■このように、

部下には、考えさせようとするのではなく、

感じさせるようにする方が、

はるかに効果的であり、

上司部下の関係性も良いものとなるのです。

 

一方、多くの管理職が、

部下に、まず考えさせようとしてしまうため、

伝えたいことが伝わらないばかりか、

上司部下の関係性も悪くしてしまっているのです。

 

「自分が伝えなければ」

とみずから責任を負ってしまう傾向は、

まさに

「負責病」

です。

 

我が国で管理職を

「管理職」と呼んでいる時点で、

みんながリーダーの役割を誤解することを助長しているのかもしれません。

 

管理職が、

「管理・指導・指示・命令・教育・コントロールしなければいけない」

とみずから介入する責任を負えば負うほど、

部下は鬱陶しく感じるだけで動かず、

上司部下の関係は悪くなります。

 

他人の意図でコントロールされることほど、人間のモチベーションを損なうことはないからです。

 

逆に、

窓やドアを開けて、猛煙や豪火を見せれば、

部下は一瞬で状況を理解できるので、

知らせてくださった上司に感謝するはずです。

 

■香港にいる頃、みなさんが弟子に、

“Don’t think! Feel!”

と仰っていたころを思い出し、

 

いま、管理職となった自分自身には

「部下に考えさせようとするよりも、まず感じさせよ!」

と、振り返ってみることを、お勧めします。

 

「どうやって説明して判らせようか」

という発想をやめて、

「猛煙や豪火はないか?」

探すことです。