■以前、ある病院から研修の相談をいただき、
お訪ねした時のことです。
「接遇を強化したいので、
患者サービス研究所に話を聞きたいと思った」
とのこと、
数ある研修会社の中から、選んでいただいたことをありがたく思いました。
ところが、研修の内容の話になると、
「対象は、研修委員のメンバーです。
研修委員のみんなのモチベーションを上げて欲しいんです」
とのこと。
■そもそも、
「職員のモチベーションを上げる」
ことを、外部講師に依頼すること自体、
みなさんも違和感を覚えることでしょう。
職員のモチベーションを上げることとは、
職員にミッションの意味づけをすることです。
ミッションの意味づけができていない組織においては、
外部講師がいくら良い話をしても、
その想いが届くことはありません。
意味づけには2つあります。
1つは
「そのミッションを遂行しなければならない必要性」
の意味づけです。
危機感の場合もあれば、
社会的使命の場合もあるかもしれません。
時には、
「できなければ恥ずかしい」
というプライドや羞恥心ということもあるでしょう。
ともあれ、職員が
「このミッションを遂行しなければいけない」
と考えるよう、思考にアプローチする意味づけです。
もう1つは、
「そのミッションを遂行することの魅力」
の意味づけです。
やりがいの場合もあれば、
誇りの場合もあるでしょう。
職員が、
「ぜひこのミッションを遂行したい!」
と感じるよう、感情にアプローチする意味づけです。
この2つの視点がなければ、モチベーションは上がりません。
「すべき」
という思考にアプローチしただけでは、
行動がいつまでも始まりません。
なぜなら、人は常に自分の用事で忙しいので、
「どうしてもしなければならない」
という必要に迫られなければ、
新たな行動に移ることができないからです。
反対に、
「したい」
という感情にアプローチしただけでは、
行動が続くことはありません。
なぜなら、人は何かを続けることが大の苦手で、
習慣を身につけることは至難なので、
「心からしたい」
という魅力を感じていなければ、
疲弊せず、健全な心で、継続することができないからです。
そして、
「なぜする必要があるのか?」
「どういう魅力があるのか?」
という2つの意味づけをする場合、
それは、その組織それぞれの価値観に基づかなければなりません。
その組織が
「こんな価値観を大事にしている」
という基礎があって、初めて、
ミッションの意味づけが重要性を帯びてくるからです。
なので、
もし逆に、組織がそんなことをさらさら考えていないのに、
外部講師が
「だから、するべきですよ」
「だから、したいでしょう?」
と必要性や魅力をどんなに力説したとしても、
職員は
「現場では、そんな話出ないよね〜」
と受け付けることはないのです。
現場職員に担当業務以外のことを実践してほしいならば、
病院の経営者・管理職・担当者が
意味づけをできていなければならないのです。
そして、それがすなわち、
モチベーションそのものです。
したがって、
コンサルタントができることは、
「経営者・管理職・担当者が、
現場職員に対してミッションの意味づけできるように
価値観を言語化することをサポートすること」
となるでしょう。
■たとえば、
みなさんのお子さんが通う学校で、
校長先生が、
「本校は、進取独立の精神を重んじています」
と宣言しているのにも関わらず、
学生の進取独立へのモチベーションを高めるために、
外部講師を招いて話をさせていたら、
どうでしょうか?
最も大事なモチベーションづくりを
業者に頼んでいるようでは、
「業者の話を、学生が真剣に聞くだろうか?」
「学生が目を輝かせて進取独立を実践するようになることは、難しそうだ」
「最も大事にしていることなら、校長先生や教員のみずからの口で学生に伝えて欲しい」
と感じるのではないでしょうか。
■自分の施設が置かれている社会環境から、
自分たちが、何を求められているのか?
つまり
「自分たちは、何に応えるべきなのか?」
は、他の誰よりも、その施設の経営者・管理職が明らかにできなければならないでしょう。
また、自分たちが働くことによって
「この仕事には、理屈ではないやりがいがある」
「この職場には、お金では買えない体験がある」
というやりがいや誇りを得ることができる。
つまり、
「だから、この仕事は辞められない」
といった、かけがえのない魅力もまた、その施設の経営者・管理職以上に明らかにできる人はいないはずです。
みなさんの現場では、
そうした業務やミッションの「意味づけ」は
できているでしょうか?
■もちろん、その意味づけに意味を感じない職員も、
中にはいます。
しかし、組織としては、力を尽くして価値観を伝えることが大事です。
価値観を充分に伝えてもいないのに、
職員が病院の方針に馴染めず辞めるようなことがあれば、
それは防げるはずの退職だからです。
■また、
「モチベーションを上げて欲しい」
と頼まれて、
「わかりました。モチベーションをあげましょう」
と引き受けるコンサルタントも、世の中には存在するのでご注意ください。
グループディスカッションをさせるなどして、
たしかに一時的に
「やる気が出たような気がする」
研修を行なうことはあります。
しかし、研修が終わり、
多忙を極める現場にまた戻れば、
職員の方々は、あっという間に目先のことに埋没し、
今日もそこで働くミッションの意味を
見失ってしまいます。
放っておけば、すぐに意味を見失う傾向があるからこそ、
「モチベーションを上げられないか?」
ということになるのですから。
コンサルタントに頼む方も、頼まれるコンサルタントの方も、
おかしなことになっています。
■職員教育においても、組織改革においても、
その組織が
「どんな組織を目指しているのか?」
という目的が原点となります。
旅でもレースでも、ゴールがはっきりしていないのに、
スタートすることはできません。
進むべき方角も、スピードもわからないからです。
進めば進むほど、ゴールとは遠ざかっているかもしれないのですから。
組織を動かし、モチベーションを上げるためには、
何よりも、まず
「どのようなゴールを目指すのか?」
が明確にならなければなりません。
そのゴールにたどり着く必要性と魅力が伝えられなければ、組織は動いてはくれません。
そのため、
患者サービス研究所でも、研修の相談を受ける時には、
かならず、まず
「どんな病院を目指しているのですか?」
とゴール像をお聞かせいただくことから始まります。
もしゴール像が定まっていなければ、
「ゴール像の輪郭を明確にしてゆく」
お手伝いをします。
そして、
その価値観にのっとって研修を務めさせていただきますが、
病院側には、
「研修後も、その価値観にのっとって組織運営してくださる」
ことを依頼しています。
でなければ、研修が一過性の催し物となり、
現場が変わることにはつながらないからです。