■社員一人ひとりが、
みずから気づき、考え、話し合い、行動する
「自律進化組織」
になるためには、
それぞれの
価値観を解放できる組織体質になることが必要となります。
昭和の時代の
「個人の価値観は不要。与えられた任務をこなせ」
というトップ・ダウンの文化では、
社員一人ひとりが思い思いに発言することも行動することもできないからです。
一人ひとりが、自分の価値観を忌憚なく言葉にでき、
行動できるためには、
「心理的安全性」
を醸成することが不可欠です。
ただし、
組織体質をつくる上では、
「日本人には、それを妨げる心理的傾向がある」
ということを知っておくと良いでしょう。
■それは、いわば、
「同調圧力依存症」
とでも言うことができると考えられます。
たとえば、講演後に、
「何か質問がある人はいますか?」
と問われても、
日本人は、質問があるにもかかわらず、手を挙げたがりません。
「自分の質問でみんなの時間を奪って良いものか?」
「みんなが自分をどう思うだろうか?」
と勝手に萎縮しているからです。
物事を決めるときにも、
「あなたの意見はどうですか?」
「あなたが決めても良い」
と個人の意見を求められても、
「では遠慮なく」
とすぐに自分を出せる人の方が少ないのではないでしょうか。
友人の結婚式に招かれて来たにもかかわらず、
急遽
「一言スピーチを」
とマイクを向けられると、
「いや、わたしよりも他の方に頼んでください」
と、スピーチを避けようとする人も珍しくありません。
このように、
自分の思いを表出することに大きな抵抗感を持っているのが、
日本人の大きな特徴でしょう。
■この原因は、
日本人が稲作民族であることから始まっているかも知れません。
稲作においては、
「耕す」
「田植えをする」
「稲刈りをする」
「脱穀する」
などなど、決められた時期に、コミュニティのみんなで一緒に作業をすることになります。
そして、それに参加しないことは、
そのコミュニティに属することを拒むことであり、
それは、
生きることを放棄することでもあると同時に、
そのコミュニティが安心して一緒に暮らすことへの妨害でもあったでしょう。
そのため、日頃から、
いかに自分がこのコミュニティの一員であるかを示し、
確認し合う習慣があったものと思われます。
そのため
「言わなくても判っているよな?」
と確認しあうあまり、
いかに少ない情報で思いを理解しあえるかが美徳となってきました。
俳句や短歌などの極めて短い文章で趣を共有しようとするのは
その良い例でしょう。
また、
一つの仮面や少ない動作で喜怒哀楽を表現する能や狂言も
その例でしょう。
■そうした古典文化や古典芸能だけでなく、
わたしたちの日常の中にも、
「個性を出すな」
「仲間としての態度を示せ」
といった、
同調圧力を受け入れさせる教育がたくさんあります。
自律進化組織を創る上では、
「日本人には、
こうした同調圧力教育を受けてきて、
同調圧力に依存したがる傾向が多々あること」
を知っておいた方が良いでしょう。
同調圧力教育の例を挙げておきましょう。
■まず、
「多数決」
で決めようとする文化です。
多数決とは、多数が少数を蹂躙することなので、
最も民主的ではないのですが、
あたかも公平は民主制度のように考えられ、
学校でも教えられ、世の中でも当り前のこととして認められています。
また、
「そんなことを言うのはお前だけだ」
といった表現を耳にすることはないでしょうか?
これも、
「だから同調しなさい」
という強要に他なりません。
もしかしたら、
この言葉に、あまり違和感を覚えないかも知れませんが、
自律進化組織を創りたいならば、
この言葉は致命傷です。
さらに、日本人の好きな「和」という概念です。
「和を乱すな」
と言われると反論しにくい空気になるでしょう。
しかし、これも
「自分の意見は二の次にしろ」
という、個性の抹殺です。
自律進化組織を創るならば、
「いかに他の社員と異なる視点や発想を持っているか」
を探究することになるので、
むしろ、
和を乱すこと(ただし人間関係を壊すわけではなく)が
美徳とならなければなりません。
さらに、学校では、
規則を破った生徒に対して
「規則を守りなさい。なぜなら規則だから」
としか説明できない教師が少なくありません。
その規則の趣旨や、
規則と守ることの実質的な意義について
考えることができず、
「規則だから守れ」
とルールを押し付けることしかできない教師が多いということです。
もし学校でも自律進化的な人間を育てようとするならば、
「なぜこの規則を破った方が良いのか、釈明してみよう」
と、
安易に同調するのではなく
自分なりの個性や視点や発想を表現する力を
伸ばすということになります。
■みなさんが、自律進化組織を創るならば、
日頃から、
「多数決はダメだ。
少数を蹂躙しない道をみんなで話し合おう」
と言うことです。
「そんなことを言うのはお前だけだ。
なんて貴重な発想を持っているのだ!」
と、できるだけ多くの社員の前で称賛しましょう。
「和を乱そう!行儀の良い意見は要らない」
と言って、
積極的に、化学反応が起きることを期待して見せましょう。
「ルールにとらわれるな。
より良くなるならば、どんどんルールを超えてゆこう」
ということばが日頃からかわされていなければなりません。
そんな日常に、明日からしてみることをお勧めします。
このようにして、
同調圧力の中に自分の身を隠そうとする習性がある社員たちを、
意図的・作為的に、
ステージの中央に引き出して、
周囲がどどうあれ自分の意見を表現させることが重要です。