漂流ボートと総力経営

漂流ボートと総力経営

■ある時、船が沈没し、
自分も含めた乗客たちが
命からがらボートに乗ることができたものの、
大海原を漂流することになったとします。
まもなく、
どうにかして食糧を得なければならず、
また船や飛行機が近くを通った時には、
ボートの存在を知らせて
救助してもらわなければ、
みんなが死んでしまう、
という状況です。
そんな事態の中、
みなさんなら、
自分たちが生き延びられるよう、
いまボートに乗っている全員の
総力を尽くし、
持てるものすべてを活かそうとするのではないでしょうか。

具体的には、

まず、全員が持っているもの、
身につけているものを
すべて目の前にだしてもらい、
それらを活かして、どんなことができるか、
全員から知恵を出し合ってもらう、
ということになるでしょう。
例えば、
ポケットの中からクリップが、
衣服からナイロンの糸が、
救命具の中から乾物が出てくれば、
それらを活かして、
「自分ならうまく魚を釣ることができる」
という人が現れるかも知れません。
あるいは、
飲みさしのドリンクの入ったペットボトルか見つかり、
ジャケットの中からレシートの束が見つかり、
船から投げ出された木箱の板切れが見つかれば、
誰かが、
ペットボトルの中身を捨てて水を入れることでレンズにして、
レシートに火をつけ、
板切れを燃やして煙を上げることで、
近くを通る船や飛行機に知らせようと、
知恵を出してくれるかも知れません。
そんな状況の中で、
「クリップなど何の役に立つのか」
「いまレシートなど出さなくてよい」
「ペットボトルなど捨ててしまえ」
などと言っていたら、
せっかく活かせる物も活かされず、
活かせる知恵も出し合われることはありません。
その結果、
飢えに襲われ、
付近の船や飛行機に発見されないまま、
みすみす生き延びられたかも知れない命を
落としてしまうことになります。
■みなさんなら、
「とにかく、いま手元にあるものを
すべて、ひと所に出し合おう。
そして、
それらをみんなで見ながら、
どんな意見でも出し合おう。
要るか要らないか、
できるかできないかは、
その後、決めればいいのだから」
と、呼びかけるのではないでしょうか。
結果的に使わない物や知恵もあるかも知れません。
しかし、どうなるかわからない時点で、
無駄な物や知恵は、
一つたりともないのです。
それが、総力を尽くすということではないでしょうか。

■そして、本題です。

職場で、
総力を尽くしていますでしょうか?

持てるもの、持てる知恵を、出し合い、
すべての可能性を活かせるよう、
とにかく、いま手元にあるものを
すべて、ひと所に出し合おう。
そして、どんな意見でも出し合おう。
要るか要らないか、
できるかできないかは、
その後、決めればいいのだから」
と、言っているでしょうか?

ボトムアップを極め、
全員参加の総力経営を実現して、
生産性の最大化を図っている現場では、
上司のみならず職員同士に至るまで、
「何でも言ってみて。
出来る出来ないは、
後で決めればいいのだから」
と、日々、投げかけ合って、
常に、すべての可能性を活かすことになっているはずです。

みなさんの現場では、職員の方々が、
「何でも言ってみて。
出来る出来ないは、
後で決めればいいのだから」
と投げかけ合うことが普通になっているでしょうか?

それとも、
「それは要らない」
「あれは余計だ」
「なぜそんなことを今言うのだ」
という言葉が聞こえるでしょうか?

もし、
日頃からすべてを出し合えていれば、
これまで思いもかけなかった新しいことが実現されたり、
患者さんにして差し上げたいと
願ってやまなかったことがみんなの協力でできたり、
自分一人では想像もしなかったようなさまざまな可能性が広がることでしょう。