素晴らしいミッションを明示しても組織が動かない理由

素晴らしいミッションを明示しても組織が動かない理由

■昭和の時代は、
高度経済成長に支えられ、
「社員が辞めない時代」
でした。

なので、
経営者・管理職の指示命令で組織が動くもの、だったのです。

どんなに職場で理不尽なことがあっても、
頑張りぬくのが美徳でした。

それはあたかも、
敵前逃亡して銃殺刑になるよりは、
敵軍と撃ち合った方が良い、というのと同じ、
追い詰められたから生まれるモチベーションだったと言えるでしょう。

平成の時代には、
「ビジョン、ミッション、バリューだ」
と言われるようになりました。

バブル崩壊から始まった平成は、
大企業でも潰れることが珍しくなくなり、
社員が辞める時代になったので、
経営陣は、
「どうにかして、社員のモチベーションを高めよう」
と考えるようになったのです。

しかし、
「ビジョン、ミッション、バリュー」
を打ち出すようになったことで、
社員がみずから考え、進化を遂げる組織になったでしょうか?

「ビジョンもミッションもバリューも素敵」
だが、
「どんどんやってみよう!」
「これまでにないことを成し遂げよう!」
というチャレンジングな組織がどんどん生まれるようになったかと言えば、
そうでもないようです。

■なぜか?
それは、
「経営陣から降りてきたビジョン、ミッション、バリュー」
だからです。

経営者の価値観が明示されたことは良いことかもしれません。

しかし、
価値観を押し付けともなりがちで、
それは、職員の本当の力を引き出すことにはつながりません。

人は、
「コレをやれ」
と言われるほど、
「コレ」
に集中してしまいます。

「コレを頼んだ通りにやってくれたか?」
を評価されるならば、
「コレ」
に全力を注いでしまうのは当然と言えば当然でしょう。

■では、どうすればよいか?
経営陣がミッションを明確にするのは、これは当り前。

平成の時代の問題は、
「ミッションを伝えれば良い」
と考えられていたことにほかなりません。

「伝えたら、判ってもらえるはず」
という、
昭和の時代の名残りである上意下達の思想が
染み付いているので、
どうしても
「伝えれば、判ってもらえる」
と考えてしまう傾向があります。

しかし、
「部下が黙って受け止めること」

「部下が自分事としてとらえること」
とは全く異なります。

すなわち、
本当にモチベーションをもって臨んでほしいのであれば、
これからは
「コミットメントをとること」
が重要となります。

簡単に言えば、
「このミッションを担ってくれる人に、
そのポストに就いてもらいたい。
あなたがそうしたいならば、あなたにそのポストを任せようと思う。
あなたがそうしたくないならば、任せることはできない。
どうする?」
と、条件を提示して意思を訊き、

「その条件の下で、その役割を担いたい」
という意思表示があった時にだけ、
ポストに就いてもらう、ということです。

これは、役職になる昇格人事に限ったことではありません。

採用・入職時、
配置転換時、
昇格人事の際、などすべての節目において
本来、必要なことです。

しかし、
企業においても、
「主任とはこういう役割だ。
あなたはその役割を担う気があるか?」
「課長とはこういう役割が。
あなたはその役割を担う気があるか?」
といった意思確認をして、
「やります!」
というコミットメントをとる、ということを
あまり厳密にやっているところは少ないでしょう。

大抵、昇格させてから、
「主任になったのだから、もっと出来なきゃダメだ」
「課長としては、まだまだ足りないぞ」
と、後になって叱責するということが多いのではないでしょうか?

まして、医療機関において、
コミットメントをとっているという事例は稀ではないでしょうか。

そのため、本人が師長になってから、
「実は、師長なのだから、こんなこともしてほしい」
と後出しで言うことになり、
上席者と本人との関係が悪くなるということになることがあります。

「主任なのだから、こういう自覚を持ってほしい」
「そんなこと聞いていません」
というやりとりになることが恐くて、
結局、上司が自分で仕事を抱えてしまうという例も多々あります。

■「今後、
昇格する職員には、コミットメントをとるようにするとしても、
それ以外の、ほとんどの職員はどうすればよいのか?」
と思う方もあるでしょう。

実は、いまはチャンスです。

なぜなら、外部環境が激変する時代になっているからです。

「時代が変化しているのだから、
組織と職員の関係性も改めて確認しなければいけない」
と言われれば反対する人はいないでしょう。

■むしろ、
これからは、
組織が職員との関係性の在り方を改めて考えていないところは、
大変なことになります。

なぜなら、
これまで当り前だったことが当り前でなくなるのですから、
きちんとそれぞれの役割を確認することをしなければ、
職員にわかってもらえるということはありません。

ミッションを明示し、
責任と権限を明確にして本人が
「それでも引き受ける」
という意思表示をするといった、
昭和・平成と異なる、
今の時代に合った、
組織と職員、上司と部下の関係性の在り方ではないでしょうか。

考えてみれば、
わたしたち自身、何かを任されるる時には、
「権限と責任を明確にして、本人の合意を取り付ける」
ということをして欲しいと、
思っていることなのですが、
なぜか、組織となると、それが徹底されていない傾向があるように見受けられます。

たとえば、
組織側も、
スタッフを信用しなければリモートにはできませんが、
一方、
スタッフも、
信頼されるだけの表現をしなければリモートを任せてもらえないのです。

またたとえば、
組織側も、
業務の成果は、職員から自己申告させる必要がありますが、
一方、スタッフも、
自分の働きぶりを自己申告するための表現能力を持たなければなりません。

昭和・平成の時代のように、
「言わなくても大丈夫だよね。
人事評価はこちらが勝手にするからね」
という、コミュニケーションのない組織文化では、
運営できなくなってきているのです。

なので、
これからの新しい組織体質を創ってゆくにあたっては、
折り入って、
「コミットメントを取り付ける」
ということを始めることをお勧めします。