■一般社団法人日本悪の組織協会の
ある協会総会の日。
最上座には理事長のショッカー、
その両脇に、理事のデストロン、デルザー軍団などなど…、昭和の時代に活躍した理事が8名ならび、
下座には、平成以降の若手組織が20名。
そんな顔ぶれが揃って会議が始まりしばらくして、
若手の一人が、ささやくような小声で
隣席の理事の一人に話しかけました。
「ちょっとすみません、デストロンさん、
もっと思い切った改革をしなきゃまずいんじゃないですか?」
「バカ、これまでを否定するようなことを言うんじゃない」
「え?良くするための総会ですよね」
「きみは入会してまだ数年だろう?」
「でも、過去の成功体験にとらわれていたら、
これからの仮面ライダーに太刀打ちできませんよ。
なのに、理事長のショッカーさんからして、
改善に否定的じゃないですか」
「おまえ!ショッカーさんの凄さを知らないからそんなことを言えるんだ」
「凄いんですか?あまりわからないけど…」
「この業界で最初に悪の組織の活動を始められたのがショッカーさんなんだ。
わたしたちの先駆けなんだぞ」
「へー」
「それだけじゃない、
いまじゃ常識になっているけれど、
毎週新怪人システムを始めたのはショッカーさんだからな。
毎週新しい怪人が登場するからこそ、みんなが釘付けになったものだ。
それも活動開始から、取り組まれたそうだ」
「そうだったんですか!
前例もなかった時に、
普通なかなかそこまでは踏み切れませんよね」
「他にもあるぞ。
活動開始からわずか4ヶ月目から幹部制を導入されたんだ」
「そうだったんですか!」
「幹部がいることで組織に厚みが出て、迫力が増すだろう」
「なるほど、すごいアイディアですね」
「それから、怪人がやられたら爆発する就業規則を作ったのもショッカーさんだからな。
最初は煙や泡になったり溶けて無くなるのが普通だったけれど、
爆発するようになってからは、
俺たち精一杯頑張った感が出るようになった。
これも、いまの悪の組織業界では常識になっている大発明だ」
「はー、たしかに…すごいですね」
「いいか、そんな風にショッカーさんが切り開いてきてくださったからこそ、
いまの私たちの業界があるんだ。
ショッカーさんがいなかったら、君たちもなかったかもしれないんだぞ。
だいたい、2年間も毎週活動を続けられたのは後にも先にもショッカーさんだけだぞ」
「たしかに2年はすごいですね。
平成の自分たちは、長くても1年ですから、
2年も戦い続けるなんて、自信ないです。
考えられません」
「それに、
世間には無数の悪の組織があるけれど、
世間の人が、悪の組織と聞いて、思い浮かべる名前といえば何だ?」
「ショッカーさんですね」
「他の名前を挙げられるか?
〇〇レンジャーの敵とか、〇〇仮面と戦った組織とか…」
「さっぱり思い浮かびません」
「そうだろう?
悪の組織といえば、ショッカーさん。
ショッカーさんといえば、悪の組織。
この業界を作ってこられたのがショッカーさんなんだ。
そういう昭和の時代のショッカーさんの偉大さを
君たちはわかっていない」
「ショッカーさんが、圧倒的にすごいのは良くわかりました。
だから、理事のみなさんは、ショッカーさんをリスペクトしているんですね」
「尊敬どころか、大恩人だ」
「それで、理事のみなさん誰も
ショッカーさんの意見に反対しないんですか?
新しい意見も出ませんよね。
でも、自分思うんですけど、
仮面ライダーも進化して、
状況はどんどん変わってきていますからね、
いまのままじゃ、絶対まずいですよ。
もっと若手も含めて、
どんどん意見を言える協会になるべきじゃないでしょうか」
「昨日今日入った君たちはそういうけどな、
これでも、かなりよくなったんだ」
「これでも、ですか?」
「そうだ。
だから、その苦労を理解せずに
過去を否定するようなことを言ったら、
理事全員の反感を買うぞ。
君たちベンチャーの方が柔軟かもしれないけれど、
どんな正論でも、
ここでは
ショッカーさんの気に障るようなことを言っちゃダメだ。
ショッカーさんにお世話になったわたしたち理事も、
黙っちゃいないからな」
「変化することを提案しちゃダメってことですか。
これじゃ、大きな改革が生まれないですね。
このままじゃ、業界全体の危機になると思われて仕方ないです。
自分、腑に落ちないですね…」
そんなことを小声で話していると、
突然、末席に座った1人の若手協会員が、手を挙げました。
平成時代に加入した若手組織の一人です。
「あの、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「あの、戦闘員の待遇とか、怪人の評価制度とかも
大事かも知れませんが、
もっと外に目を向けていかなければ、
ライダーにも勝てないんじゃないでしょうか。
もっと抜本的な改革をしなければ、
時代の流れに置いていかれて、
茹でガエル状態になり、
業界全体の危機になると思うんですが」
全体の空気がいっぺんに変わりました。
「まず、昭和の時代のライダーは素手だったそうですが、
最近のライダーは、
レーザーガンを乱射したり、大型ロボットを操縦するのも当り前です。
そういう飛び道具対策をしないとこっちがやられてしまう時代です。
それに、昔はライダーも1人2人だったかも知れませんが、
彼らはなにかというとすぐに全員集合をかけるので、
どんどん増えて、
最近では30数名が勢ぞろいします。
ともすると、
こっちの方が少人数で、
対
峙しただけでもう勝てる気がしないっていう事態もしょっちゅうですよね。
ライダーのくせに、
ここ20年で急速にズルい感じになってきているんです。
いぜんは卑怯と思われていたのが、今は普通だったりと、
昔の常識は、いま通用しないんです。
なので、わたしたちも、
もっと危機感を持って改善してゆけないでしょうか?
でなければ、この協会の意味もないと思うんですが」
しばらくの静寂の後、
理事の一人が口を開きました。
「ま、様子を見ましょう」
さらに、別の理事が、
「今後の参考に聞いておきます」
若手協会員が続けました。
「いや、あの、
もう少し具体的に話をさせていただけますか?
昔のライダーと違って、
最近はクルマとかロケットを操縦する時代です。
事実上『ドライバー』や『パイロット』ですから、
彼らは、もう『ライダー』の概念じゃなく、なんでもありなんです。
当然、手段も選ばなくなっているんで、
これからは、
ライダーもドローンとか、無人機を平気で使うとか、
わたしたちの個人情報をネット上に漏洩しちゃうとか、
充分あると思うんです」
そしてさらに、
「なので、
わたしたちの業界も、
過去の栄光にすがっていたら、もうダメだと思うんです。
新しい時代に着いてかなきゃダメじゃないんですか?」
「ダメ」をたたみかけた最後の一言で、
理事全員の顔がひきつり、
その場の空気が完全に凍りつきました。
そして……、
翌月の協会総会では、
若手協会員の席が1つ減っていたことは言うまでもありません。