■昨日も、病院職員の方々のヒアリングをしましたが、
複数の職員の方が、
勤務し続けるかどうか、を決めるのは、
「結局は人間関係ですよね」
と言っていました。
辞める・辞めないも、
頑張る・頑張らないも、
人間関係で大きく変わります。
現場で
挨拶する・しないや
連携する・しないにいたっては、
小さなことに見えて、
実は人間関係によって180度変わります。
まして、一言相談して、患者のためにできることを
する・しないとなれば、
日頃の人間関係によってすでに決まってしまっているでしょう。
看護師に聞いて患者さんに伝えてあげることができるはずのところを、
看護師とは仲が悪いので、
「次回の診察の時に看護師に聞いてみてください」
事務に確認すればすぐに患者さんに答えてあげることができるところを、
事務とは仲が悪いので、
「市役所に電話で確認してみていただけますか」
このように、職員同士の関係が悪ければ、
患者さんのためにして差し上げられることが、
ことごとくできません。
ということは逆に言えば、
職員同士の関係が良ければ、
患者さんのためにして差し上げられることが
掛け算的に広がるということです。
それが患者さんにとって、どんなに嬉しいことでしょうか?
一人の職員に相談したことなのに、
多くの職員が気にかけてくれて、
動いてくれたり、
声をかけてくれたり、
力になってくれたら、
「こんな病院は他にない!」
ということになるのは明らかです。
「この病院では、職員全員が
わたしのために向き合ってくれた」
という体験になるからです。
いかに、職員同士の人間関係が重要か、
火を見るより明らかでしょう。
■ところが、こんなに重大なテーマであるにも関わらず、
「職員間の人間関係」
に真剣に向き合っている組織が、どれだけあるでしょうか?
また、
「職員間の人間関係」
に真剣に向き合っているコンサルタントや組織論はあるでしょうか?
たしかに、
最近は、
職員同士でサンキュー・カードを交換しあえるアプリケーションなどが出回っているようです。
が、紙カードで持続しなかったものが、
アプリケーションだから持続するということはありません。
また、たしかに、
職員が集まるイベントを企画している病院もあります。
が、得てして職員からの評判は
「ありがた迷惑」
です。
なぜ、そうなるのか?
「コミュニケーションを増やせば、自然に関係が良くなる」
というわけではないからです。
ロバート・ザイアンスが
「よく会う人や、何度も聞いている音楽は、好きになっていく」
という
「単純接触効果」
なる理論を唱えていますが、
それなら、
結婚して同居し、毎日顔を合わせることになった夫婦が
離婚することなどあり得ないということになってしまいます。
まして、職場の職員同士を
「単に同じ時間・空間に放り込めば仲良くなるだろう」
という発想は、浅薄すぎます。
パンダでさえ、しばしば
「同じ檻に入れたのに、ぜんぜん交尾しない」
のですから。
(上記の例は、人間がパンダと同列だとでも?)
■ともあれ、職員の退職理由のほとんどが
「人間関係」
であるとされています。
この人間関係を良好なものにすることができれば、
どんなに健全で生産性の高い組織が実現できるでしょうか。
「働き方改革だ!」
と、有給休暇を強制的に取らせれば、
みんなやる気を出してくれるんじゃないか、
などと考えている場合ではないことがお分かりでしょう。
職員が退職するたびに、
いったいどれだけの無駄を支払っていることでしょうか。
- 退職面談、
- 欠員補充するための人材紹介料金、
- それまでの穴埋めをする人材派遣料金、
- ネットや紙媒体での広告費用、
- 志望者があれば採用面接の時間、
- 入職が決まれば人事手続きのロス、
- 制服・名札などの庶務手続きのロス、
- 業務を習得するまでの教育費用ロス、
- 教育係の業務が妨げられるロス、
- にも関わらず辞められてしまうことでのストレス、
- などなど…、
膨大な損失が、毎月のように生まれているのです。
そして、
これからも毎年、何百万円・何千万円の人材紹介料金を
支払い続けてゆくのでしょうか?
そして、採用・人事に関わる職員は、
永遠にこの不毛な作業から抜け出すつもりはないのでしょうか?
まさに穴の開いたバケツです。
採用人数も多いが退職人数も多い組織を、
「多産多死型組織」
と呼ぶ人がいますが、
それは経営スタイルでもなんでもなく、
組織づくりがなされていない組織であることを
露呈しているにすぎません。
こうして見れば、
現場の人間関係を良くしなければ、
「組織が崩壊する」
ということはおわかりでしょう。
■しかし、多くの医療現場では、
「だれも人間関係調整をできる人がいない」
ということが多々あります。
だからこそ、
職員の活性化、組織の生産性の向上を
プロモートする専門担当者
「CGO(最高組織開発責任者)」
を置かなければなりません。
管理職がそれぞれに
困ったり、悩んだり、頑張ったりするだけでなく、
専門担当者とともに
真剣に向き合って、人間関係を調整してゆかなければならないのではないでしょうか。
昭和の組織論や、多くのリーダーシップ書籍は、
「そこをうまくやるのが管理職だ」
と精神論を語っているので、
振り回されてはなりません。
人間関係は、
当事者と話し、
もう一方の当事者とも話し、
口実や段取りを構成して、
うまく事態を収拾することが必要なのです。
患者サービス研究所では、そうした
「人間関係調整」
を数多く行なってきましたが、
やり方がわからず、そのままにしてしまい、
職員を人間関係に苦しむままにしてしまっている現場は
少なくありません。
管理職が調整に乗り出さずに、
一方が退職に至ったケースも多々あり、
気の毒でなりません。
放っておいて、
いつのまにか仲直りしていたということがあるのは、
乳児くらいまででしょう。
(上記の例は、職員が乳児と同列だとでも?)
関係調整をするとなれば、
双方それぞれの面談、
誰が同席するか、
どのような条件提示を引き出せるか、
それに即したもう一方との交渉など、
さまざまな注意点があります。
最大の注意点は、
絶対に訴えてきた職員の不利益にならないように
進めることです。
関係を悪化させてしまったら、本末転倒です。
■鈍感な管理者は、
「文句があるにせよ、
いま一応うまくいっているのだから、
問題がないのではないか。
なぜ、介入しなければならないのか?」
ということがしばしばあります。
なぜ、人間関係調整をし、
なぜ決着しなければならないか?
お互いに嫌だと思いながら付き合い続けると、
摩擦が生まれ続け、
ストレスが増えるばかりので、
生産性も下がるからです。
さらに、このタイプのストレスは、
メンタルを病む可能性が大きいですから、
放置することは危険です。
そのままにしておくことは百害あって一利なく、
1日も早く正常化しなければなりません。
しばらく前、ある病院で、
人間関係の悪い状態を知っていながら、
1ヶ月経ってもそのままにしていた事務長がいました。
そこで働く当事者たる職員たちは、
毎日が針のむしろだったに違いありません。
にも関わらず事務長が何もしない組織で、
職員が、
「ここは人を大切にしてくれる組織だ」
「ここで頑張ろう」
と思うことは、まずあり得ません。
そこで、
現場では、
管理職がこうした人間関係調整能力を備える必要があります。
コーチングを学ばせておけば済む
と言う安易なことではありません。
すぐに管理職の人間関係能力を向上することが無理なら、専門担当者
「CGO(最高組織開発責任者)」
を配置しなければならないでしょう。