■昨今、よく聞くのが
「エンゲージメント」
という言葉です。
以前は、
ロイヤルティとか忠誠心とか愛社精神と言われていた
職員の職場に対する帰属意識のことですが、
最近は、
「エンゲージメント」
という、よくわからない言葉に変わっているようです。
強いて言えば、
「愛着」
「思い入れ」
などと訳されるようです。
ようするに、
職員の、
「ここで働き続けたい」
という動機をなんとか取り付けたい、ということでしょう。
たしかに、医療現場は
専門職集団なので常に新天地を求めて退職する選択肢が
視野にあるのは当然であり、
一方、病院側は、職員の募集採用には
膨大な費用を支払って経営や施設基準を維持していますから、
職員をつなぎとめることは極めて大きな命題です。
■ところが、
「エンゲージメントを高めましょう」
と、流行りのフレーズをうたっているコンサルタントが
その手段として挙げている手法が、
とても的を射たものでなく、驚いたことがあります。
そこに、主な手法として挙げていたのが、
- MBO
- 360度評価
- OKR
- 1 on 1
などだったからです。
■MBO(目標管理制度)
これは、わが国では古典的な組織管理の方法になりつつあり、
一定の評価を得ているようにも見えますが、
導入している現場からは、すべからく
「形骸化している」
という声を聞きます。
上層部が指示・命令によって、
部下職員に目標を書かせ、
管理職が面談をする、という手順だけが浸透していますが、
実際にそれで生産性が上がったとか、
職員のモチベーションが上がったということは
ほぼ聞いていません。
なぜか?
それは、職員に
「進化するのが仕事だ」
ということにコミットさせていないから、という理由に尽きます。
患者さんにとってより良く、病院にとってより良く、自分自身にとってより良くなるために、
考え行動することがミッションだと伝えていないので、
職員は、進化する必要性を感じていません。
そのため、
「目標を立てよ」
と言われても、何のことかわからない、というわけです。
「進化するのが仕事だ」
ということにコミットさせれば、
みずから課題を探し、対策を講じ、おのずとチャレンジしたいことが浮かび、
いくらでも目標が溢れ出てくるので、
目標管理制度が
活きた、面白い、ワクワクする、熱いものとなるのです。
しかし、ほとんどの職場では、
「進化するのが仕事だ」
ということにコミットを取り付けていないので、
職員はおのずと、
「日々の業務をこなすことが仕事だ」
と理解しています。
そのため、180度逆に、
一切の変化を拒む体質になってしまうのです。
そんな職員たちが
「目標を立てよ」
と言われても、
「任された仕事を正確迅速にやること以上に、
なにか目標って必要なんですか?」
と反発するだけです。
上層部も管理職も、
「いいから、目標の欄を埋めて提出しなさい」
というので、形骸化するのは当り前、
とい構図です。
こんなことをしていても、
エンゲージメントが得られるはずがありません。
むしろ、
「担当業務以外に、目標管理とかいう、
よくわからないことをさせられる」
と感じ、職員のエンゲージメントは、
損なわれてしまうだけです。
■繰り返しになりますが、
「進化しようとしない者に目標なし」
です。
目的地を決めずに航海に出た船に、
灯台は意味をなしません。
目的地を決めずに走っている人に、
目標は必要ありません。
■多くの組織は、
「その目的地は、経営陣が明確に決めている」
というかもしれません。
しかし、それは職員からすれば
「自分がやりたいこと」
ではなく、
面白くもなく、楽しくもなく、ワクワクすることもありません。
したがって、
「ああしてみよう、こうしてみよう」
「こうすれば目標をはるかに超えられるかも」
という発想が出てくることはありません。
みなさんご自身も、
自分がさして重要と感じてもないことで、
他人から押し付けられたことは、
「怒られない最低限をやっておけばよい」
という対応になるのではないでしょうか。
怠けたいという心からではなく、
人には他にも自分なりに
「もっと大事なこと」
「もっとやるべきこと」
がたくさんあるため、
そちらをどうしても優先してしまい、
他者からの押し付けは後回しになりがちだからです。
そのため、経営陣が押し付けたことについて、
「さらに目標を立てよ」
と言われても、
職員にとっては鬱陶しいだけなので、
モチベーションも上がらず、
驚くような成果が生み出されることもないばかりか、
エンゲージメントが損なわれるだけ、
ということなのです。